作文のような答えよりも“大事なもの”を見たい

たとえ作文のような答えが返ってきても、1時間も雑談していれば、それが本音なのか、それとも誰かの単なる受け売りなのかは分かるもの。

久遠チョコレートに面接に来る方には、周囲とコミュケーションをうまく取れないタイプが少なくない。社会に出るといわゆる“コミュ障”と言われるタイプだ。そういう人は、どちらの質問にも往々にしてキレイな答えは導き出せないことのほうが多い。

それでも、言葉に詰まりながらでも、なんとか答えを探そうとする姿には心動かされるし、もっと詳しく話を聞いてみたいと思う。人物を見る時、もっとも大事にしているのは、うちで働きたいという意志を明確に持っているかどうか。

障害などで、自分の言葉で表現するのが難しい場合は、その家族から話を聞くこともある。「ここで働きたい」「ここで稼ぎたい」という意志の有無を見極める。実際、「将来の夢は何ですか?」と聞かれても、うまく言葉にできない人が大半。「ここで働きたいです」という答えが精一杯の人もいる。

ただ、その言葉や態度に嘘がないと思ったら、周囲からどう見られているかや、将来の夢について何も答えられないとしても採用する。放っておけなくなるからだ。

失敗しても温めれば何度でもやり直しがきくチョコレートが、凸凹ある人たちの雇用を多く生み出すことを可能にした。出典=『温めれば、何度だってやり直せる』(講談社)より

ここでは、そうして僕らの仲間になってくれたスタッフについて話してみようと思う。

スタッフの90%が女性、しかも子育て中の人ばかり

久遠チョコレートで働いている人の90%は女性。なかでも子育て中のママさんが大勢活躍している。とくに製造や出荷の現場では、女性たちが主役。しかも、一度勤めると辞めずに長く働いてくれる。

子育て中の女性が多い理由は、試行錯誤しながら、彼女たちが働きやすい環境を徐々に整えてきたからだ。

久遠チョコレート開業当初から、働きたい、と応募してくれる子育て中の女性は多く、積極的に採用していた。出産でキャリアを諦めてしまったけれど子どもが大きくなってきたのでまた仕事をしたい。子どもにまだ手がかかるけれど少しでも社会とつながっていたい。そんな女性はたくさんいるが、どうやら社会のほうに彼女たちを受け入れる場所は少ないようだ。

その頃、僕らの製造現場では夜9時近くまで必死に製造を続けていた。注文した商品が届かない、と、各フランチャイズ店から怒られることも多々あった。生産効率が上がっていなかったので、遅くまで作業しないと各フランチャイズ店の注文に応えられなかったのだ。思い返すとちょっとブラックな職場環境だったかもしれないと反省している。