再発防止策は「独身男性は採用しない」
吉田亮(仮名・40代)はいわゆる大学院卒で就職先が見つからない「高学歴難民」で東京近郊の学習塾の講師をしている。大学院の奨学金の返済が残っており、非正規という状況で、とても家庭を持つことなど考えられなかった。
亮の同僚の男性も同じ境遇で働いていたのだが、生徒に性加害を行っていた事実が発覚し、クビになってしまった。この件は、地域でも噂になり、会社としては対策を迫られることになった。
ところが、再発防止策としての社長の提案は、講師に独身男性は採用せず、代わりに定年退職しているシニア世代を採用するというのである。
「女性を入れるとかならまだわかるんですが……、一気に講師の高齢化が進みました。独身だと性犯罪を起こすという発想が差別だし、こんな偏見に満ちた会社だから事件を防げないんですよ……」
いまの時代にあまりに酷い対応である。結局、生徒は集まらずに会社は潰れている。
「非モテ=性犯罪者」という発想は差別でしかない
筆者は加害者家族支援において、1000件以上の性犯罪事件に関わってきたが、性犯罪者となった人々の容姿、年齢、社会的地位は実に様々であり、いわゆる「非モテ」で性に飢えた孤独な男性像というのは必ずしも当てはまらない。精神保健福祉士で社会福祉士の斉藤章佳さんが『男が痴漢になる理由』などで指摘しているように、性犯罪の根底にあるのは、性欲より支配欲だと解されており、高齢者であれば性犯罪に手を染めないという根拠もなく、実際、事件も起きている。
「アニメ」や「オタク」は、昭和の凶悪事件を象徴する東京・埼玉幼女連続誘拐殺人事件の犯人・宮崎勤氏のイメージから、未だに犯罪者と結びつける人々もいる。膨大な量のビデオや漫画で埋め尽くされた宮崎氏の部屋の映像は、あまりに衝撃的で脳裏に焼き付いているが、後にこれらは一部メディアによる過剰な演出であることが明らかとなった。
昨今起きている事件でも、女性が殺害された事件ではアイドルを、銃が使用された事件では、犯人は戦闘ものの作品を好んでいたといった偏向報道が繰り返されているが、いずれも男子なら興味を抱くような作品であり、犯行に大きく影響しているかは疑問である。
性犯罪とは人を支配し、屈辱を与えることであり、性犯罪者となってしまった人々のなかには、過去に容姿をからかわれ、いじめられたり、性暴力を受けたりして育つなど、屈辱的な体験によって心に傷を負っている人々も少なくない。差別や偏見はむしろ、加害者を生む要因となり得るのである。
犯罪が差別を生み、差別が新たな犯罪を生むという悪循環を断つには、声を上げにくい男性の被害に耳を傾けることも不可欠である。