コメの需要は減り続けているのに助成金は増え続ける

米どころのコストパフォーマンスが悪い理由は、第1章で述べたように、土地改良の予算が大きい割に農業産出額が振るわないからである。土地改良以外にも、コメには多額の予算がつく。農政の中心に長年君臨し続けている作物こそが、コメだからだ。

農水省は、2兆3000億円弱の予算のうち、6000億円近くを水田に関連する事業に使っている(図表2)。その多くは、需要の減少に対応するという後ろ向きなものである。

食生活の多様化や人口減少の影響で、コメ余りは加速している。近年は、その需要量が年間10万トンを超えるペースで減ってきた。コメの総需要量を農水省は2023年産で680万トンと予想しているので、その1.5%に当たる。コメはかつて農業産出額の半分を占めていた。ただ、いまや1.4兆円で全体の8.8兆円に占める割合は15.9%(21年)に過ぎない。そんなジリ貧状態のコメを支えるために予算を大盤振る舞いしている。

筆頭格は、ここ数年で3050億円を確保している「水田活用の直接支払交付金」。コメの需要が減るなか水田では、需要を満たしていないムギやダイズや、飼料用、米粉用といった主食用以外のコメの生産などを助成する。

この予算額は増える傾向にある。コメの需要が減るにつれて、転作の面積が増え、助成金を増やさなければならなくなるからだ。財務省は、2039年には3904億円まで膨れ上がると推計している。

財政面でも農業面でも持続的な発展は望めない

山口亮子『日本一の農業県はどこか 農業の通信簿』(新潮新書)

コメに対する大盤振る舞いを、財務省は苦々しくみている。予算案の査定と作成を担う同省の主計官は、農水省関連の政策が矛盾していると繰り返し指摘してきた。

「低収益作物への転作ほど助成金単価が高く設定されている中、我が国の水田農業においては、経営規模が大きくなるほど助成金への依存度が高まり、また収益性が低下するという傾向が見られる。本来大規模経営体には、逆に水田農業全体の収益性の向上をリードしていくことが期待されるところである」(「令和4年度農林水産関係予算について」、広報誌『ファイナンス』2022年4月号、財務省)

面積の大きい稲作経営ほど、収益に占める補助金などの割合が高まる(図表3)。大規模な経営体が増えるほど、農業の補助金依存が進む状況を財務省は「paradoxical(筆者注=逆説的な、矛盾した)な状況」と指弾している。米どころほど財政のコストパフォーマンスが悪いのは当然の結果なのだ。

21年4月に開かれた歳出の改革を議論する「歳出改革部会」で、財務省の主計官はこう苦言を呈した。

「現行スキームに頼った生産抑制を続けるのみということでは、財政面でも持続可能ではないと思われますが、米・農業自体の持続的な発展も望めないのではないかと考えます」

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