農業は自然を壊すものだから原っぱに戻す?

そもそも左派の強いEUの考えでは、“農業は自然を壊す”ものだ。当然、緑の党のドイツの現農相も、科学に支えられた高度で効率的な農業よりも、蝶々が飛んで、カエルが鳴く風景が好きらしい。だから、先達が何百年もかかって開墾した肥沃ひよくな農地の少なくとも1割を、なるべくただの原っぱやら湿原地に戻したい。

これらの動きは、特に中小規模の農家を追い詰め、ここ数年、泣く泣く廃業に至るケースも増えていた。一方、そうして手放された農地を買い取った大規模農家が、ますます効率の良い経営を実践することになり、いわゆる農業の寡占化が進んでいる。

減反や有機農業シフトで減った収穫分は輸入すれば済むといっても、最近は戦闘や旱魃かんばつで食料は不足気味。世界のあちこちでは、飢餓で苦しんでいる人たちも少なくない。ドイツのように比較的豊かな国がなけなしの食料を買い占めれば、貧しい国で飢えている人たちの食料を奪うことにもなりかねない。そんな道徳的に疑問符の付く政策を、ドイツ政府はあたかも善行のようにして進めようとしている。

トラクター隊と数千人の農家がベルリンに集結し…

今回、ドイツの農家の堪忍袋の緒が切れた直接の原因は、政府が、農家に対する免税など、いくつかの優遇措置を撤廃しようとしたためとされるが、真実は前記の通り、これまで何年も続いてきたEUの方針に対する農家の怒りが爆発したというほうが正しい。そして、それに加えて、現政権の「暴政」に対する激しい抗議でもある。

ドイツ農民連盟が企画した農民デモは、まず昨年12月18日、ベルリンで火蓋が切られた。数百台の農耕用トラクターが隊列を組んで市内、および周辺道路をブロック。抗議集会が行われたブランデンブルク門の広場は、見渡す限りのトラクターと意気盛んな数千人の農民で埋まった。

デモの様子は複数のテレビ局が中継したが、農民連盟の代表、ヨアヒム・ルクヴィート氏のスピーチは決然とし、しかも、すこぶる過激だった。その横で、怒声、罵声、呼子の音に包まれたオツデミア農業相が、水に落ちた犬のようにしょんぼりと立っていたのが印象的だった。