生活環境や状況は幸福度の10%程度に過ぎない

では、この研究で明らかになったことは、幸福になるためにどんな意味をもつのでしょうか? それは、知性やコレステロールにおける遺伝子と同じように、人が生まれつきもっている設定値の大きさ――つまり、高い(7段階中で6)か、低い(7段階中で2)か、中程度(7段階中で4)か――が、人生を通じてどれくらい幸せなのかを決定するということです。

そしておそらく、最も意外に思われるであろう結論をこの円グラフは示しています。「裕福か、貧乏か」「健康か、病気がちか」「器量がいいか、人並みか」「既婚者か、離婚経験者か」などの生活環境や状況による違いは、幸福度のわずか10%程度しか占めない、ということを。

魔法によって、例の映画館にいた100人全員を同じ環境(同じ家に住み、同じ配偶者をもち、同じ場所で生まれ、同じ顔をして、同じ痛みを感じる)においてみた、という状況をイメージしてみてください。そのような状況だと、その後に変化があったとしても、彼らの幸福度はせいぜい10%分しか違ってこないのです。

この結論にはしっかりとした科学的な根拠があります。とてもよく知られた研究結果で、「年収1000万ドル以上のとりわけ裕福なアメリカ人の幸福度は、彼らが雇っている労働者の幸福度と比べて、やや上にすぎなかった」ということが報告されています。

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結婚が幸福度に与える影響

また、既婚者は独身者よりも幸せだと一般的には思われるかもしれません。しかし、個人の幸福度に結婚が与える影響はじつのところかなり小さなものだ、ということもこの結論からわかっています。これは別のデータも物語っています。

10カ国で調べたところ、既婚者の25%と独身者の21%が、自分は「とても幸福だ」と述べているそうです。このような収入や配偶者の有無など「環境の要因」が、じつは幸福度の決定にはあまり影響しないという発見に、驚く人はかなり多いでしょう。

幸福度に影響を与える要素として、富や美しさ、健康などは影響が小さいものだとは、なかなか信じられないかもしれません。けれども、これにも強力な研究結果があります。その研究結果について、のちほど興味深い説明をいくつかしていきます。まずは「生活環境は幸福になるための最大の鍵ではない」ということが真実だと受け入れられれば、幸福を追い求める力はより大きくなるのです。