保険適用ではないピロリ菌検査は不安があったら受ける
では対策型検診で推奨されている検査だけで十分かというと、そうとも言い切れない。
ピロリ菌という、胃の粘膜に生息する、らせん形をした細菌がある。正式名称は「ヘリコバクター・ピロリ菌」だ。胃潰瘍や十二指腸潰瘍、慢性胃炎のほとんどはピロリ菌が原因で起こる。
胃がんのほとんども慢性胃炎から始まるため、ピロリ菌が原因といってもいい。ピロリ菌が生息している場合、早めに除菌治療をしたほうがいいとされている。
しかし、このピロリ菌検査は先に内視鏡検査(胃カメラ)を受けないと保険適用にはならない。なかには、中学校や高校で検査を行なっている自治体や地域もあるが、全国的にはまだ行われていないのが現状である。
「ピロリ菌の有無を検査するというのは、胃がん発症予防のために効果は高いと思います。でも今は内視鏡検査を受けないと、保険適用でピロリ菌の検査はできません。人によっては楽な検査ではありませんが、ぜひ一度内視鏡検査を受けてピロリ菌の有無を調べてほしいです」
ピロリ菌のような検査は例え内視鏡検査を受ける必要があっても、不安があれば受けるべきであろう。
学会と厚労省の「見解」が異なる検査も
アイルランド出身の医師スザンヌ・オサリバンは著書『眠りつづける少女たち』の中で、「病や疾患の有無は、多くの人々が考えているような不変の科学的真実などではない」と前置きした上で、〈診断基準〉によって健康な人間が、突如、病気のカテゴリーに入ってしまう危険性を指摘している。
明らかな疾患は別として、例えば高血圧はいくつの数字から正常と異常を区切るべきなのか。体質、生活習慣、遺伝によって差異があり、診断基準となる数値がすべての人に当てはまるものではない。そして厄介なのは病気のラベルを貼られると、剥がすのは容易ではないことだ。過剰検査が、新たな病を呼び込むこともある。
前出の坂本はこう言う。
「小さい脳動脈瘤が検査で見つかっても、場所や大きさによっては、くも膜下出血を起こすリスクが非常に低いこともあります。治療をせず定期的に経過観察をする方も多く、実際に治療になる方は半分もいない。ところが、脳動脈瘤が見つかったことで心配になってしまい、精神的に参ってしまうこともある」
検診にはがんの予防や早期発見という目的で行うには、効果が低い検査も含まれていることがある。人間ドックの“オプション”に含まれることがある、腫瘍マーカー検査はその一つだ。
「腫瘍マーカー検査は、本来がん診断後の経過や治療の効果をみるために行われる検査です。それだけでがんの診断ができる検査ではない」
血液内科の河村浩二教授は「早期発見を目的として行う意味はあまりない」という。
腫瘍マーカーとは、がん細胞やがん細胞に反応した細胞によって作られるタンパク質などの物質のこと。がんの種類によってそれぞれ特徴がある。しかし、がん以外の病気や飲酒・喫煙などの生活習慣、飲んでいる薬の影響などにより、がんでなくとも、高い数値となることがある。
反対に、がんがあっても値が高くならないこともある。さらに、がんの種類を確実に特定できない。あくまで参考になる検査の一つとして、診察や画像診断の結果と併せて使用されている。
唯一、前立腺がんに関しては腫瘍マーカーが有効とされている。だが早期治療のために必要だとする泌尿器科学会と、過剰検査だと考える厚生労働省とで意見が割れている。
「何を見るのかで違ってくるのだと思います。広い集団全体の死亡率を下げるためなのか、個人の死亡率を下げるためなのか。そこで大事になるのが、『感度』『特異度』『有病率』『陽性的中率』といった数字になります(図表1参照)。
同じ感度・特異度でも、対象となる集団の有病率によって、陽性的中率が違ってくるのです。ここから分かるのは、人間ドックや検診のようなほとんど有病率がない集団に対しては、この検査は推奨されないということです」
いかなる検査にも偽陽性が必ず含まれている。その割合を「誤警告率」として表す。この数字は対象が有病率の低い、つまり健康な人間の集団ほど大きくなっていく。その検査はムダなだけではなく、受診者に著しい精神的・経済的負担を負わせる可能性がある。
「同じ検査でも、病気が疑わしい人に対象を絞れば別なのです。一般の健康な人が、いろんな検査をとりあえずやる必要はないと思います。単に検診をするだけではなくて、本当にそれが有効な検診なのかどうかを真摯に調べていくという姿勢が大事なのだと思います」