優秀な人でもプレゼンが下手な理由

半人前レベルはなるべく早くクリアしないと、新入社員は仕事の面白さも知らないうちに脱落してしまいかねない。だから、この段階を(1)の方法でやっていたのは、まったく理にかなっていなかったということになる。新入社員にしてみたら、なかなか先が見えない難行苦行に感じたことだろう。(2)の方法に転換すれば、そんな不合理はなくなる。

幸いにも私は、(1)の方法のようなかたちで、いわゆるプレゼンの練習をいっさいしたことがない。それでも、BCGに入社して1年くらいすると、周りから「おまえ、急にプレゼンがうまくなったな」といわれるようになった。

そのきっかけは何だったか、あまりよく覚えていない。しかし、その手がかりになりそうな一連の経験には、少し覚えがある。

まずBCGに入って間もないころ、大手化学会社の仕事についていって、ある先輩コンサルタントのプレゼンテーションを見た。仮にBさんとする。このBさんのプレゼンが、新人の私から見ても下手だった。あんなに優秀な人がなぜこんなに下手なんだ、と信じられない思いで見ていたものだ。

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頭の良し悪しとプレゼン能力とは、どうもあまり関係ないらしい。ということは、何か他の資質なり工夫が必要なわけだが、それはいったい何なんだ? すぐにそう感じはしたものの、それが具体的に何なのか、最初はさっぱりわからなかった。

その私の疑問にヒントらしきものをくれたのは、それから何回かセミナーで見ることになる堀紘一のプレゼンテーションだった。

コツの正体は気づきによって学んでいくこと

実は堀と私はBCGでは同期入社である。

とはいえ年齢も経験もまったく違っていて、堀は最初から日本事務所の幹部候補生、こちらは単なる新入社員だった。

堀は、そのころから現在に至るまで実にプレゼンがうまい。

もっとも、どこがどううまいかというのは、言葉では言い表しにくいところがある。とにかく、見ていて、聞いていて、グングン引き込まれていくのだ。

うまい要素を一つひとつ分析してピックアップしてみても、さしたる意味はないのである。部分部分ではなく、全体として捉えておくことが大切なのだ。

ただ、堀のわかりやすい特徴を1つだけ挙げておくと、ある講談師がテレビに出ていた彼の喋りを聞いて、「この声はカネになる」と感心したそうである。これは、前述したプレゼンの3つのコツのうち、声を大きく、その実は声のハリ、に通じている。

また、堀のプレゼンを何回か聞いたのと並行してもう1つ、きっとあれがよかったんだなと思う経験をした。

ある航空会社での仕事がそれである。あのときは、同じパッケージのプレゼンをいろんな部署の何人もの人に、繰り返し繰り返ししなくてはならなかった。そして毎日のように、十回、二十回と反復して同じ内容のプレゼンをしているうちに、自然と何か見えてくるところがあったのだ。

これも、具体的に何がどう見えてきた、とは言葉では言い表しにくい。

私は、堀のプレゼンを何回か聞いているうちに、また同時並行で自分でも繰り返し同じ内容のプレゼンをしているうちに、何らかの手応えをつかんだのだ。少なくともこうしろと教えられたのではなく、明らかに自ら気づいたのである。

こういう感じをあえて言葉にするなら、それは「気づき」だということになる。

これがコツの世界の学び方なのだ。要するに、テクニックや手法のようにお勉強形式で身につけるのではなくて、気づきによって学んでいく、わかっていくのがコツというものなのである。