ブームはいずれ去る次なる仕掛けは……

ところが、オープンするや、それがいかに甘い予測だったかを肌で知ることになった。初日は約9400人の入館者があり、ピーク時には入館待ちで400人の行列ができた。開館1カ月間で24万人。1日平均8000人の鉄道ファンが押し寄せたのだ。

「1日4000食も弁当が売れる日があり、これはもう想像を超えていました。すると今度は食べる場所がない。列車の中で弁当を食べられるように用意した車両2両ではとても足りない。館内の空きスペースのあちこちにテーブルと椅子を並べた。廃車予定の特急車両を4両手配し、急ぎ化粧直しをして弁当列車として追加しました」


マニアに絶大な人気の運転シミュレータ。D51タイプは、実際にSL運転手を養成できるほど本格的な動きをする。山手線、東海道本線、東北上越新幹線など5台設置。

開館から1年で188万人と当初目標の2倍近い入館者数を達成。11月には200万人を突破した。平日は2000~3000人、休日は6000~7000人の入館者がある。集客活動などどこ吹く風の勢いが開館以来続いている。

「展示車両の車内に乗って触れる。本物に限りなく近いシミュレータで模擬運転もできる。参加型で鉄道を学び、機械を学ぶというコンセプトが間違っていなかったのだと思います。もう一つは、非常に女性に受けたことです。お子さんを連れてきたお母さんたちを失望させなかった。テレビなどメディアでの露出が多かったとはいえ、女性が男性を連れてくるケースもあれば、女性同士で来る方たちもいらっしゃる」

とブームが続く理由を分析する。落ち着いた館内照明に照らされて、ずらり並んだ鉄道車両に見入ったり、手を伸ばす老若男女の姿を見ると、鉄道は多くの人たちに愛されていることに気づかされる。だが、関根の頭の中で、「集客」の2文字が消えることはなかった。

「いま私たちが力を入れているのは、コンセプトの一つである『教育』です。さいたま市の教育委員会と博物館が協力してプログラムをつくり、市内の小中学校の校外学習の一つとして、博物館を利用しています。さいたま市以外の学校は個別に対応しています」

開館1年で、さいたま市以外の学校を含め609校、4万2000人あまりの児童生徒が校外学習の一環として利用しているという。これを増やすことは博物館のためだけではなく、鉄道の役割を深く理解することにつながる。

関根には“隠し玉”がある。日本の鉄道史を語るうえで欠かせないたくさんの資料だ。その数58万点。博物館の倉庫に眠っている。

「館内に展示されている資料は、車両なども含めて2000点程度です。眠っている資料には、重要文化財の古文書や古い貴重なポスター、マニアにとっては1枚数百万円もの価値がある蒸気機関車などの銘版もある。こうしたものを特別展示といったかたちでお見せしていきたい」

100両を超える機関車、200両近い客車や貨車、数十万点の資料が展示されている英国の国立鉄道博物館は、世界最大規模だ。これに倣い、関根はできるだけ多くの資料を展示して、世界に通用する博物館にしたいという。その目はブームの先を見ていた。(文中敬称略)

(的野弘路=撮影)