高野さん自身、20代だった1990年代、60~70年代の音楽やファッション、グラフィックが大好きだったという。

「生まれる少し前くらいの時代の文化に、おしゃれさや可愛さといった新しい価値を見つけ出すのが、いまに至るまでずっと好きなんです。だからいまの若い世代が、生まれる少し前の80年代、90年代に惹かれることには共感しますね」

少しだけノスタルジー

この「生まれる少し前の時代にグッとくる」は、普遍的なものではないかと高野さんは言う。

「Z世代は幼少期の頃に、『色褪せた昭和の名残』と出合っているんです。親の実家に『オサムグッズ』のごみ箱があったり、おばあちゃんの家に黒電話があったり。だから平成生まれの人たちにも昭和へのノスタルジーが少しだけあるのでしょう」

ただ、若い世代にとってのレトロブームにおいて、ノスタルジーはあくまでも「少しだけ」だとも指摘する。

「『懐かしい』感覚を明確に覚えるのは、自分たちの幼少期にリアルにあったプリキュアやニンテンドーDSのソフトなどに対して。昭和のものなど生まれる前のものに対しては懐かしさが隠し味で入ってはいるけど、基本的には『新しい価値として向き合っている』感じがします」

若い世代がレトロに見いだしている新しい価値とは何か。一つは、「デザインの面白さ」だ。

「クリームソーダの着色料の色のどぎつさや、80年代のアイドルのフリフリの衣装、平成初期のスケルトン家電などに見られる、デザインの『過剰さ』。そこがアップル製品に代表される『シンプル・イズ・ベスト』的なものとは対極で、すごく新鮮に映っていると思います」

もう一つは、「アナログの心地よさ」だ。コンテンツと直接向き合っている感覚さえあるスマホに対し、テープレコーダーのボタンをガチャンと押して再生したり、「写ルンです」のシャッターをカシャリと押すといった行為からは、間に物理的なメディアがはさまっているという実感が得られ、楽しい面もある。若い人たちには「相当響いているのでは」と高野さんは言う。

「もちろんデジタルの方が便利で、良いに決まっている。でもアナログの面倒くささも逆に、たまに土鍋でご飯を炊くのもいいよねと思うのと同じように、『人生の味付け』として心地よく感じているのだと思います」

(編集部・小長光哲郎)

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