主流派の麻生氏vs非主流派の菅氏の代理戦争
菅氏が安倍派のなかで連携してきたのは、萩生田氏だ。安倍政権では菅官房長官のもとで官房副長官を務め、加計学園問題などでともに奔走。政界引退後も安倍派に絶大な影響力を持つ森喜朗元首相に寵愛され、安倍派会長レースのトップを走ってきた。石破政権が誕生すれば、菅氏は萩生田氏を幹事長にねじ込んで安倍派から萩生田派への移行を後押しし、菅―萩生田体制で政権をコントロールする構想を温めてきたのである。
これに対し、麻生氏が安倍派のなかで連携してきたのは、世耕氏だ。世耕氏は地元・和歌山で長年の政敵である二階氏に参院から衆院への鞍替えを阻まれ続け、今すぐに総裁選に出馬する立場になく、萩生田氏に一歩後れを取っている。二階氏と連携する菅氏に近づくわけにはいかず、菅氏の宿敵である麻生氏に接近するのは自然な流れであった。
安倍派内部の主導権争いは、主流派の麻生氏vs非主流派の菅氏の代理戦争の様相を帯びていたのである。
岸田首相は来春までに総辞職の決断を迫られる
そこで炸裂したのが、安倍派の裏金事件だった。
5人衆のなかで捜査線に浮上しているのは、派閥運営に責任を持つ事務総長を務めた松野氏、西村氏、高木氏の3人だ。彼らがキックバック分を収支報告書に記載しないように事務方に指示していたとすれば、政治資金規正法違反(不記載・虚偽記入)で逮捕される可能性が出てくる。
なかでも内閣の要である官房長官の松野氏が検察捜査の標的となったことは、岸田首相に決定的な打撃を与えた。人気回復を優先して所得税減税を表明し、財務省をはじめ霞が関のコントロールが利かなくなった岸田官邸に対するエリート官僚たちの忠誠心はすっかり失われている。検察当局が官房長官を強制捜査することへの抵抗感もなくなったといえるだろう。
岸田首相自身は来年春の内閣総辞職を最終的に受け入れておらず、何とか支持率を回復させて政権を続行する意欲を失っていない。一方で、来年2月には鈴木善幸を抜いて宏池会(岸田派)歴代首相の在任期間の2位に躍り出る。宏池会創始者の池田勇人には及ばないものの、「歴代2位」として老舗派閥の宏池会の歴史に名を刻むことに、岸田首相はとてもこだわってきた。
来年2月に鈴木善幸を超え、来年3月に当初予算が成立し、来春予定の国賓待遇の訪米まで持ち堪えれば、内閣総辞職を受け入れるのではないか――足元の岸田派にもそのような見方が広がっている。松野官房長官への強制捜査は、岸田首相に来年春の内閣総辞職の決断を迫る最後の一撃になるかもしれない。