誰でも購入でき「うちの子に限って…」は通用しない

「なぜ大学生に、という言葉が出ましたが、実は大学生ばかりでないのです。報道されているのがたまたま大学生だったというだけで、中学生も高校生も薬物の被害に遭っています。ここ数年を見てみても、警察官、海上保安官、自衛官、少年院教官、消防士、僧侶、アスリート、医師、薬剤師などの薬物乱用防止(教室)の講師までが、覚せい剤、MDMA、大麻等で検挙されているのです。薬と縁もゆかりもなさそうな人たち、そしてより高潔性が求められる人たちが薬物にハマっています。大学教授の例は50代ですが、多くは20~30代。私はマトリとして40年以上現場にいましたが、かつてない現象で、凄まじい勢いで広がっています」(瀬戸さん)

成績優秀、親子関係も良好で何ら問題がないように思われる若者なのに、なぜ薬物に走ってしまうのだろうか。もともと好奇心があって……、または先輩や友人の誘いを断れないという若者特有の人間関係があるのだろうが、簡単に薬物に手を出す背景にはどんなことがあるのか。瀬戸さんが話す。

「最近ではこれに生きづらさが加わってきたのです。家族の問題、対人関係の問題、社会的な問題などがあって、いわゆる違法薬物でなくても、正規の市販品でもいいので、逃れるために手を出してしまうのです。さらに言っておきたいのは、スマホがあればいとも簡単に薬物も市販品も手に入ります」

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成績優秀で家庭円満な子でも簡単にクスリに手を出してしまう

瀬戸さんが実際に相談に乗った最年少は中学生だったという。先輩や友達からすすめられた経験があって、友人同士でそういう話題になったときに、ネットで見ると、大麻は「1グラムあたり5000、6000円」で買えることがわかった。「じゃあ、買おう」と連絡すると、すぐにOKの返事がきたので、お金を出し合って買ったのだと彼は告白した。

さらに薬物の問題の裏には、多くの人の薬物に対する危機意識の低下があるのだという。「覚せい剤でなければ危険じゃない。既視感があって問題ないと思っている人が大半なのではないでしょうか。一部には、大麻はいいもの。タバコやお酒よりも依存症になりにくく、それを厳罰化するなんて日本の法律がおかしい、などといった誤報が流れています。情報パンデミックというほど、偏向、あおり、そそのかし情報が氾濫しているのです。

そしてネットでは好きな情報だけ見ますよね。エコーチェンバー現象といって、ソーシャルメディアを利用する際、自分の似た興味関心を持つユーザーをフォローした結果、自分の意見をSNSで発信すると、それに似た意見が返ってくる現象で、肯定的なもので埋め尽くされる。狭隘きょうあいなグループの中で、その情報が増幅していき広まる。さらに年下の子どもたちに伝わるころには、大麻なんて全然大丈夫、となってしまうのです」(瀬戸さん)