彼の研究には賛否両論もありますが、彼が行った調査をもとにして、歯科や栄養学について議論されるようになっていきました。

日本でも、食べ物と「噛む」ことに関するさまざまな調査があり、なかには興味深い報告もあります。

たとえば、齋藤滋著『よく噛んで食べる 忘れられた究極の健康法』(NHK出版)によると、日本の各時代の復元食と噛む回数や時間を調べた結果、戦前の食事は、1食につき1420回噛み、約22分かけていたのに対し、現代では620回噛んで約11分になっているそうです。

出典=『口の強化書

たった数十年の間に、噛む回数や食事時間が約半分に減ったわけですね。

噛まない食事、早食いでいいことはない

この調査がユニークなのは、全体的に噛む回数が減少傾向にあることを示すと同時に、より長いスパンで比較されていることでしょう。

調査結果によると、卑弥呼ひみこの時代よりも紫式部の時代のほうが、源頼朝みなもとのよりともの時代よりも徳川家康とくがわいえやすの時代のほうが、噛む回数と食事時間が減っています。

おそらくは、それぞれ以前の時代に比べて、よりやわらかく食べやすい食事に変化したということなのでしょう。つまり、食べる意識の問題というよりも、「食事内容」の変化によって噛む回数などが減り、口腔機能が変化してきたと見ることができるのです。

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端的にいえば、戦前に比べると、パンやハンバーグ、オムレツをはじめとする、あまり噛まなくても食べられる西洋式の食事が増えたことで、現在はどうしても歯や「舌の力」、口まわりの筋肉がうまく発達しない傾向にあるようです。