ネット上では「上から目線」に批判が噴出したが、首相は「減税も給付もするというのに、なぜ国民に歓迎されないのか」と苛立っているとの見方が自民党内には広がっている。首相と国民の距離は開く一方だ。

岸田首相は9月の内閣改造人事で主流派の茂木幹事長の交代を画策した。麻生太郎副総裁に猛反対されて土壇場で断念したものの、麻生・茂木両氏ら主流派には首相への疑念が残った。一方、菅義偉前首相や二階俊博元幹事長ら非主流派は人事で干され、怒り心頭である。

最大派閥・安倍派は会長職を争う5人衆(萩生田政調会長、西村康稔経産相、松野博一官房長官、世耕弘成参院幹事長、高木毅国会対策委員長)は全員留任したため、中堅・若手にポストが回らず不満が募る。

頼れるのは最側近の木原・前官房副長官だけ…

最後の砦の岸田派も穏やかではない。ナンバー2の林芳正氏は親中派であることが米国のバイデン政権に疎まれ、9月の人事で外相を外された。さらに首相の従兄弟である宮沢洋一税調会長も、首相が独断専行的に所得税減税を進めたことに不満を募らせている。

岸田首相が耳を傾けるのは、最側近の木原誠二幹事長代理(前官房副長官)だけだ。英語が堪能な木原氏は米国のエマニュエル駐日大使と毎週のように接触し、バイデン政権の意向を岸田首相に伝えてきた。岸田首相にとって、菅氏や茂木氏らライバルが影響力を残す外務省を介さずに米国の意向を受け取る貴重な窓口なのである。

木原氏の妻が元夫の不審死事件の重要参考人として警視庁に事情聴取されながら捜査が不自然な形で打ち切られた疑惑に世論の批判が高まった後も、木原氏を要職にとどめたのは、木原氏なしでは政権運営が立ち行かなくなるからだ。岸田首相は9月の人事構想も木原氏とふたりで練り上げた。そして今回の所得税減税を木原氏の強い進言を受け入れたものと言われている。

いまや木原氏を除いて岸田首相を全力で支える勢力は自民党内にない。首相は党内で完全孤立の状態に陥ったのだ。

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岸田首相の再選は「かなり困難」

それでも内閣支持率が堅調ならば、ただちに「岸田おろし」が起きることはなかろう。しかし人気回復策の減税カードを切っても支持率は続落。ウクライナに続いてイスラエル・パレスチナ問題でもバイデン政権への追従外交の実態が露呈したいま、今年春のキーウ電撃訪問やゼレンスキー大統領が来日した広島サミットで支持率を急回復させた「首脳外交マジック」の再現も難しそうである。内政でも外交でも手詰まりなのだ。