そして、わかりにくい。納税額は所得や家族構成などによって千差万別。我が家がいくら減税されるのか、すぐに理解できる人のほうが少ないだろう。そもそも防衛財源を大幅に増やすために所得税の増税を表明しながら、物価高対策で減税を行うというのは支離滅裂だ。ひとり10万円の一律給付は簡潔明瞭だった。
最後に、不公平感が強い。住民税非課税世帯には7万円が給付される。働く人は納税額が4万円減るだけなのに、働いていない人は7万円を受け取れる。しかも非課税世帯の8割近くが60歳以上の高齢世帯だ。物価高に加えて社会保障費の負担が重くのしかかる現役世代が不公平感を募らせたのは無理もない。世代間対立を煽る結果となった。
増税メガネと呼ばれたくはないだけ
所得税減税を柱とする経済対策の規模は17兆円を超え、一般会計の歳出追加額は13.1兆円にのぼる。コロナ禍の「現金10万円の一律給付」に要した予算は12.9兆円。ほぼ同額だ。今回の経済対策に盛り込まれた所得税減税や企業減税などをやめれば「現金10万円の一律給付」の財源は十分に確保できる。
国民が納得する金額を、わかりやすく、平等に配ることは、今すぐに実現可能なのだ。
それなのに、なぜ、現金一律給付ではなく、減税なのか――。野党は国会でここに照準を絞って追及しているが、野党でなくても当然に浮かぶ疑問である。その答えは、首相自身が認めなくても、明白だ。「増税メガネと呼ばれたくはない」だけである。
首相のあだ名で思い出すのは「アベノマスク」だ。コロナ禍の行動制限で国民の不満が鬱積するなか、安倍首相は現金一律給付に加えて、一世帯に2枚の布マスク(アベノマスク)2億8700万枚の配布に踏み切った。
ところが、不織布マスクに比べて感染予防効果が疑問視されたうえ、全体の3割が配布されず保管費用がかさんだこともあり、「天下の愚策」として批判が噴出。異次元の金融緩和政策「アベノミクス」をもじって「アベノマスク」と揶揄されたのである。内閣支持率は落ち込み、安倍首相は体調不良を理由に退陣したのだった。