技術流出覚悟のHV生産開始も……
トヨタは08年秋の「リーマン・ショック」と大規模リコール問題によって、主戦場だった米国市場で大打撃を受け、それまで手薄だった新興国市場へのシフトを鮮明にしてきた。インド、ブラジル、インドネシアなどで相次ぎ新興国専用車を投入しているのも、その表れだ。中国でも11年に88万台だった新車販売台数を15年までに倍増の180万台に引き上げる計画を打ち出したばかりだった。
これを裏付けるように、トヨタは中国への世界最先端技術の流出のリスクも覚悟のうえで、ハイブリッド車(HV)「プリウス」の中国生産を昨年12月に開始し、15年までにHVの基幹部品も生産し、中国でのHVの一貫生産に乗り出す計画だった。これは中国の環境車政策にも沿っており、世界トップを走るHV技術をテコに、中国でシェア拡大につなげる強い決意表明だった。
しかし、ここにきて一気に不確実性が増した中国市場の現状は、トヨタの目算を大きく狂わせかねない。ひいては今夏発表した12年の販売計画で、日野自動車、ダイハツ工業を含むトヨタグループが掲げた世界販売1000万台の目標にも暗雲が垂れ込める。
トヨタは12年上期(1~6月期)に、グループ販売台数で2年ぶりに世界トップの座に返り咲いた。このタイミングで12年通年の目標に世界1000万台と据えたのも、リーマン・ショック、リコール問題、東日本大震災を乗り切り、復権をアピールする狙いがあったはずだ。
豊田章男社長は、反日デモで販売店が破壊されるなど尖閣問題が深刻化した後も、中国は「中長期的に強化していく市場であることに変わりない」との姿勢だ。しかし、チャイナ・リスクがトヨタの世界戦略の大きな不確定要素として急浮上したのは間違いない。