クマの目撃件数が2000を超えたが実際はもっと多い

秋田県警に寄せられたクマの目撃件数は、今月15日時点で2144件となり、記録の残る2009年以降で初めて2000件を超えた。これでも一部に過ぎない。なぜなら山間部ではクマを見ない日がないほど頻繁に出没するため、多くの地域住民が見慣れてしまい、警察に通報しなくなっているからだ。秋田魁新報の社会面は連日、クマによる人身被害や食害などに関する記事や写真であふれ、多くのスペースを割かざるを得なくなっている。時には丸々1ページが埋まったり、1面トップに据えたりすることだってある。

秋田県内には2020年春時点で4400頭のクマがいると推定されている。本来は山林を生息域とするため、従来はキノコ採りや山菜採りで山に入った人が襲われるケースが多かった。ところがここ数年で状況は一変した。クマの方から人間の暮らすエリアに侵入し、鉢合わせした人を襲うようになったのだ。実際、今年の人身被害の8~9割は山中ではなく人間の生活圏で起きている。

県都・秋田市の住宅密集地にもクマが現れ、市民は震撼

中でも衝撃的だったのは、今月9日に県都の秋田市で発生した事故だ。住宅密集地にクマが現れ、立て続けに4人に飛びかかったのだ。現場は県庁からわずか3キロ。日本海と雄物川と運河に囲まれた島のような地形の中にあり、クマが入り込むには橋を渡るか、川や運河を泳いでくるしかない。地域住民の誰もが「まさかこんな場所で……」と耳を疑い、「クマが出たという情報自体、初めて聞いた」と口をそろえた。

9日午前9時すぎ、自宅の庭でテレビアンテナを修繕していた男性(80)は、一息つこうと椅子に腰かけた。その瞬間、背後から足音もうなり声も発せず突進してきたクマの体当たりを受け、突き飛ばされた。左腕を打撲し、頭をひっかかれて数針縫うけがを負った。ほぼ同じ時間帯、向かいの家に回覧板を届けに行く途中の女性(78)も襲撃された。頭や腕から血を流して倒れ、救助される際、「クマ、クマ」と訴えていたという。他にも散歩中の男性2人が相次いで襲われ、一帯は騒然となった。

「みちのくの小京都」として名をはせる仙北市角館町。黒塀の武家屋敷が連なり、春は桜、秋は紅葉で彩られる。2キロにわたって桜並木が続く桧木内川堤も有名だ。東北を代表するこの観光地にも今月、クマが現れた。しかも日によっては数頭が同時に。人や食料の被害だけでなく、観光までもが打撃を被る事態になってしまった。

写真=秋田魁新報社提供
木の上に登ったクマ=2023年10月13日午前11時34分、秋田県仙北市角館