余裕がないときは深呼吸と周りへの声かけを
だからこそ、自分の認知はどのように形成されたのか、何が影響しているのかを理解することが大切です。理解することによって、例えば、自分の認知には特定の一つの経験が大きな影響を及ぼしていることに気づくかもしれない。
また、それを認識することによって、今度は一つの経験から生まれた認知が他の出来事に当てはまらないということにも気づくかもしれない。
さらには、その場での認知には、そのときの状況や体調も含めた心身のコンディションも影響します。疲れているとき、睡眠不足、空腹時、そして忙しくて気持ちに余裕がないときには、特にネガティブな感情や考えが浮かびやすいものです。
先ほど私の事例をご紹介しましたが、育児や仕事で忙しい親御さんで、言うことを聞かないお子さんに腹が立ち、わーっと叱ってしまって後悔したといった経験がある方は私だけではないと思います。
人は余裕がないとイライラの沸点がとても低くなってしまいます。そんなときには、その場で自分の沸点の低さを認識して意識的に深呼吸すること。おやつを食べたり、冷たい水を飲むこと。休めるときには休むこと。
あるいは、「今日はママは体調が悪くて、うまく反応できないかもしれないから、なるべく焦らなくてもいいように、早めに準備するとか、自分ができることは自分でするようにして、協力してね」と子どもやパートナーにお願いしてもいいと思います。
そして、つい怒鳴ってしまったときには、自分に優しくなって、「体調悪い中頑張ってるんだよね」と自分に声をかけてあげた後、子どもに謝ることがあってもいいのです。
メタ認知と客観視
先日、6歳の次男が面白いことを言いました。
朝起きると次男の顔に鼻血の跡があったので、「あれ? 夜、鼻血が出たのかな」と聞くと、自分の顔が見えないので血がついていることに気づかなかった次男が、「僕は僕の顔は見えない。ママもママの顔は見えない。人生は一人称でしか生きられない」と言ったのです。
どんなに自分を客観視しようとしても、自分の視点でしか客観視できないこと、だからこそ「人生を自分にとって意味のあるものにしなければ」と思わされた、寝起きの6歳児のけだし名言でした。
自分を客観視するという意味で、「メタ認知」という言葉が存在します。
メタ認知とは「認知を認知すること」。つまりは自分の感じ方のパターンや考え方の癖、そして今自分はどんな思いでいるのかを分析することで再評価の中心的な役割を果たします。その過程において「自分の考え方を客観視してみること」も含まれます。
例えば、翌日がプレゼンの日。
「失敗したらどうしよう。恥をかきたくないな……」など、不安でいろいろな考えが頭に浮かんできます。そんなときに「プレゼン中につっかえてもう一度言い直しても、自分以外は誰も気にしないだろう」などと考え直したりする。
このように、自分を自分以外の視点から見たときにどうなのかと想像して客観視する能力も、感情をコントロールする際に重要な役割を果たします。
自分以外の視点を考えること、認知のパターンについて顧みる働きを支えているのも、実は脳の前頭前野です。前頭前野は思春期頃から急速に育ち始め、一般的には20代後半まで成長を続けると言われています。
前頭前野が発達途中の時期には、感情の持つ力が計り知れず、コントロールが不能に思えるかもしれません。しかし、だんだんと大人になるにつれ、感情に大きく左右されることは少なくなっていくものです。
大人になっても前頭前野の力を使い切れていない人はたくさんいますが、その一方で私たち人間に備わった考える力は、何歳になっても成長可能なのです。