身近な人の内面をほめる
そのためには、単なる“おべんちゃら”ではなく、しっかりと人間観察をして、適切にほめる力を身につけなければなりません。常に脳をフル稼働させておく必要があり、これが脳の活性化につながります。
適切に正しくほめることができれば、相手も気持ちがいいですし、自分の脳トレにもなる。まさに「情けは人のためならず」で、人をほめることは、めぐりめぐって自分の利益にもつながるということです。
これを「互恵」といいます。ただ相手をほめろと言われても、何の見返りもなく、他者に力を尽くし続けることは、それこそ仏様でもないかぎり、無理です。持続的に「利他」を行うには「互恵」が不可欠で、そのほうが相手にとっても助かります。
お互いにほめ合うことこそ、認知症対策の理想。「善は急げ」ともいいます。さっそく、この本を閉じたら、誰かをほめてみてはいかがでしょう。ご主人、奥様、親御さん、子ども、孫、友人、同僚……。どこをどうやってほめようか。そう考えるだけで、きっとわくわくしてきます。
「思い出」を話すだけで脳は元気になる
⑤思い出話
年をとると、昔話が増えるといいますよね。でも、じつは「思い出話」には、認知機能の低下を抑える効果があるという説もあるのです。
認知症や認知症グレーゾーンになると、最近の記憶を保つことが苦手になっていきます。一方で、認知症がかなり進行しないかぎり、昔の記憶はよく保たれます。この脳の中に眠っている記憶を意識的に呼び覚ますことを「回想法」といい、医療や介護の現場でも、認知症のリハビリテーションとして取り入れられています。
この回想法を、ぜひ普段の生活に取り入れてみてください。ご夫婦で、家族で、お友だちと。単に昔話を語り合うだけでもいいですが、テーマを決めるとより効果が得やすくなります。
ご夫婦であれば、初めて出会った日のこと、初デート、二人で観た映画や旅行、共通の友人、子どもや孫にまつわる思い出などなど。相手の言葉を否定せず、「そうだったね」「あのときはどうだったっけ?」など、お互いによい聞き手になることが、回想法のポイントです。
日常のなかにあった家電や生活用品をテーマにするのもおすすめです。たとえば、昔懐かしい箱型の白黒テレビや黒電話、それから足踏み式のミシンなど。私が子どもの頃は、まだ洗濯板を使っているご家庭も多く、水を張ったたらいの前にしゃがんで、ごしごしと洗い物をしているお母さんがいました。そういう、同世代だからこそ通じるテーマは、コミュニケーションがとりやすくなります。