高度な機械があっても使いこなすには結局体力がいる

そこで私は助っ人を呼んだ。研究室の後輩の後藤優介君である。彼はクライミングのスキルがあって運動神経が抜群のスパイダーマンのような男だ。大学を離れてしばらくは富山県の立山カルデラ砂防博物館に勤めていたが、茨城県自然博物館の学芸員として関東に戻ってきた。それからはお助けキャラのごとく学生をサポートし、たびたび研究室のピンチを救ってくれている。

このときも梅雨明けを待って首輪を落としたと思われる場所まで案内すると、ザイルを使ってスルスルと滝を登り、危なげもなく首輪を回収してくれたのだった。

器用な学生が蔓を伝って木を登り、上のほうの枝に引っかかった首輪を回収したこともあった。

GPSと小型カメラを搭載した高度な機械を使っているのに、上手に使いこなすには体力やクライミングのような生身の技術が要求される。そういうところもフィールドワークの面白さかもしれない。

写真=iStock.com/OSTILL
※写真はイメージです

クマは起きている時間の大部分はひたすらボーっとしている

ところで、首輪はいつの間にか外れてしまうこともある。最初に取り付けた最も古いカメラ付きタイプの首輪は、故障したのか電波を発することもなくなり、どこにあるのかわからなくなってしまったことがある。結局、調布飛行場から小型飛行機を飛ばして探し回る羽目になったのだが、見つからずじまいだった。

すっかり諦めていたころ、奥多摩でシカの調査をしている調査員から、首輪を拾ったという連絡をもらった。最初の調査から2年が過ぎたころである。時間は経っていたがデータは無事に取り出すことができた。

このように、回収するのがひと苦労のカメラ付き首輪だが、回収できてもがっかりすることが多い。取り付けた直後にレンズに泥が付いたり、落ち葉が貼りついたり、水滴が付いたりすると、ずっとブラックアウト状態で何を撮っているのかわからないのだ。

まともに撮影できていても半分ぐらいの動画は真っ暗だったりもする。穴に入っているからではない。どうやら地面に突っ伏して寝ているらしい。

「おや? 急に明るくなって画面が青くなったぞ」

そんなときはたぶん寝返りを打ったのだろう。あおむけで寝ているのか、空が見えることもある。

とにかく、クマがゴロゴロダラダラしてばかりいることだけはよくわかった。起きている時間の大部分はひたすらボーッとしていて、さっぱり何をしているのか見当がつかない。