映画やドラマの会見のような“出来レース感”があった

実はジャニーズ事務所が関わってきた映画やドラマの制作発表会見では、あらかじめ記者に「こういう質問をしてください」というリクエストをされることがある。筆者は事務所から言われたことはないが、テレビ局や映画製作会社の宣伝担当からキャスト全員に質問が行き渡るように依頼されたことがあり、質問そのものを書いた紙を渡されたこともあった。もちろん、その場合は、司会者に筆者の座る位置などが伝えられており、必ず指名されることになる。

そんな出来レースはエンタメにおいてもあってはならないのかもしれないが、今回は、この日、会見内容を事前にスクープした日経新聞の記者のみが全国紙の中で当てられるなど、絶対にあってはならない報道の現場で、それが起きているようにも感じた。

そんな中でも、核心を突く質問をあきらめずに手を挙げ続けた人もたくさんいた。「ジャニー喜多川氏による性加害が、事務所が少年たちを奴隷化する手法として利用されていたのではないか」というIWJ(インディペンデント・ウェブ・ジャーナル)の質問は、東山社長に向けられたものであり、東山社長が「僕は見て見ぬフリをしたと言われたら、それまでだ」と言った後に、井ノ原氏がまたすかさずフォローした。

事務所の組織的な性加害構造について問われると…

「絶対的な支配の中にいたんだと思います。それは巧妙な手口だと思います。だから、僕ら子どもたちが気づかぬうちにそういう支配下にあり、その当時いた大人たちもそういう人がたくさんいたのかもしれません。その本当に得体も知れない恐ろしい空気感というものを僕は知っています。きっと東山さんも知っていると思います。『こうなったらどんどんおかしなことになっていく』というのを肌で感じていると思います。

撮影=阿部岳人

そして、やっぱり被害者の皆さんは今までやはり声を上げられなかった、それぐらい強いものだったと思います。だから(中略)一人が勇気を出してくれたおかげで何人もの人たちが告発できたんだと思いますし、それを無駄にしてはいけないと思っております」

つまり井ノ原氏が言いたいことは、ジャニー喜多川氏存命中は「得体も知れない恐ろしい空気感」があり、事務所が「どんどんおかしなことになっていっていた」ことを認めるが、被害者に対しては補償をするので、東山社長の責任は問わず、これ以上ほじくらないでくれということではないか。