「優良物件」の語彙が市民権を得た理由

その一例としてオンラインメディア記事のタイトルを挙げてみます。

① 逃しちゃダメ……「優良物件男子」の特徴(『マイナビウーマン』2021年2月11日)
② 実は優良物件⁉ 絶対に手放すべきでない大当たりな男性の見分け方(『TRILL』2021年9月5日)

また、Twitter(現「X」)の検索機能を用いて、「優良物件」を含む呟きがどれくらい発信されているのかを調べてみました。最近1カ月だけでも約500件が見つかったのですが、驚くべきことに不動産用語として登場したのはわずか1割にも満たず、いまやメタファーとしての「優良物件」が大勢を占めています。なるほど、冒頭で紹介した妻の言い分は正しかったのです……。

メタファーとしての「優良物件」を簡単に分析してみましょう。

日本国語大辞典 第二版』(小学館)で「物件」を引くと、以下の2つの意味が登場します。

①物。物品。もの。
②法律上の物。物品などの動産、土地・建物などの不動産の類。

ここで注目したいことがあります。不動産用語としての「物件」とは、「建物」だけではなく、その建物が建てられている「土地」も含まれるという点です。不動産用語の「優良物件」とは資産価値が持続できることや高値で売却できることが条件ですから、それはそうでしょう。

さて、一般的にメタファーが作られる際、「二つの事物の間に観察される類似性認識に基づいて、一方をもう一方で見立てるという構造化がなされる」といわれています。たとえられる側の概念をターゲット、喩える側の概念のことをソースと呼び分けて、下に図示してみましょう(図表1)。

これを見ると、「理想の結婚相手」を示す表現として「優良物件」がぴったりであることが納得できませんか。

喩えるものが属するソースから喩えられるものが属するターゲットへの変換がそれぞれ見事に成立しているからです。だからこそ、「優良物件」のメタファーは急速に広がりを見せ、市民権を得たのでしょう。

この「優良物件」のメタファーはいつ誕生したのでしょうか。

写真=iStock.com/key05
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