組織のボスが捕まっても世界の麻薬汚染は終わらない
メディアではロップ容疑者に終身刑が言い渡される可能性が指摘されているが、もしそうなったら、世界の麻薬汚染の状況は改善されるのだろうか。
いまのところ、その答えは「ノー」である。なぜなら、たとえボスがいなくなっても、巨大な麻薬組織はそのまま残るからだ。東南アジアのジャングル地帯にある大規模な麻薬生産施設や世界中にはりめぐらされた密輸ネットワークなどは維持され、ほかの誰かがロップ容疑者に取って代わり、組織を率いていくことになるだろう。
麻薬マフィアの問題を根本的に解決するには、中国政府が組織を潰すくらいの覚悟を持って問題に取り組む必要があるだろう。しかし、中国政府がそれを行う可能性は低いように思われる。なぜかといえば、中国政府は違法薬物ビジネスを国の経済にとって重要だと考えているように見えるからだ。
中国の麻薬ビジネスの現場に潜入取材した経験を持ち、調査報道の受賞歴がある米国人ジャーナリストのベン・ウェストフ氏によると、中国共産党はフェンタニルなどの有害で違法な薬物を経済の重要な部分と考えているため、その生産と輸出を抑制しようとしていないという。
中国政府が本気を出さなければ解決しない
中国政府が違法薬物の取り締まりに消極的なことは先述したオーストラリアの例でも明らかだが、その対応を見かねてか、オーストラリア政府は麻薬組織のボスを指名手配にして、他の国の協力を得て容疑者の逮捕にこぎつけたのである。
同様のことは米国についても言える。米国政府はこの4~5年の間、中国政府にフェンタニルの密輸を厳しく取り締まるよう求めてきたが、中国は応じなかった。その結果が米国司法省による中国企業と従業員に対する起訴につながったのである。
中国はアヘン戦争(イギリスの商人が中国にアヘンを持ち込み、国内で蔓延して深刻な社会問題となり、1840年にイギリスとの戦争に発展した)の経験もあり、薬物犯罪には最高で死刑を科すなど厳しく対応している。それにもかかわらず、薬物犯罪を生み出す大きな要因となっている巨大な麻薬組織を放置している。西洋諸国に対して大量の麻薬を密輸しているのは、アヘン戦争の意趣返しなのだろうか。
先述の通り、麻薬マフィアのボスが逮捕されたとしても麻薬汚染の問題は解決しない。中国政府が本腰を入れて組織の壊滅に乗り出さなければ、世界の麻薬汚染が改善に向かうことはないだろう。