コロナショックで資金繰りがピンチに
その後、SBGはアームの事業運営体制を強化しつつ、資金を回収するための方策を模索し始めた。まず、2020年9月、米半導体大手エヌビディアへの売却を発表した。この時点で売却額は最大400億ドル(約4兆2000億円)だった。当時、SBGはコロナショックによる世界的な株価下落に直面し、アームを売却しなければ資金繰り不安が高まる状況にあった。
しかし、2022年の年初、米欧の独占禁止法がハードルとなり、エヌビディアは買収を断念した。SBGはアームの新規株式公開(IPO)に資金調達の手段を変更した。アームが拠点を置く英国政府はロンドン証券取引所への上場をSBGに求めた。
一方、孫会長はアームの取引先企業が多く上場する米ナスダック市場への上場を早くから目指した。EU離脱によって英国は、“ヒト、モノ、カネ”の流出に直面した。一方、米国には生成AIの開発やチップの設計開発などで有力な企業、研究機関が多い。IPO先として米ナスダック市場上場を選択したのは、自然な流れだった。
“世界最速”で進むAI利用
SBGは、アーム上場時の売り出し価格を51ドルに決定した。結果として9月14日のIPOは成功した。足許、“チャットGPT”をはじめとする高性能なAIの利用は、世界全体で急速に増加した。AIは世界を変えるという夢が大きく膨らんだ、といってもよい。
2022年11月の“チャットGPT”の公開後、2カ月で利用者数は1億人を上回った。それまでの1億人突破の最速は、中国のバイトダンスが運営する“ティックトック”の9カ月だった。
情報の正確性に不安は残るものの、情報検索のスピード向上、より迅速、効率的なプログラミングの実現への貢献、文書作成能力の高さなどが評価され、AIを業務に活用する企業は急増した。2023年5月と8月のエヌビディアの決算も、AI需要がいかに強いかを確認する機会になった。AIの利用は想定以上に速いと評する経済やITの専門家も多い。