中間層に光を当て、人口増加率1位に

これら「5つの無料化」の実施にともない、所得制限を設けなかったのは、いくつか理由があります。私の考えるベーシックな子育て支援施策は「すべての子ども」が対象です。親の所得によってサービスの受けられない子どもが出てくるのは、私の理念に反します。

また、私は市長になる前から、「地域経済は中間層に光を当てることでまわり出す」と考えていました。所得制限を設けなかったのは、中間層に光を当てたかったからです。

明石市の人口は10年連続で増え続け、2020年の時点で30万人を突破しました。直近の国勢調査で、全国の中核市(人口20万人以上の指定を受けた自治体)のうち人口増加率1位にもなりました。明石市にどんな世帯が一番流入してきているかというと、それは先述した「中間層(その中でも中の上の世帯)」なのです。

「財政が圧迫される」「市が損をする」は間違い

泉房穂『日本が滅びる前に 明石モデルがひらく国家の未来』(集英社新書)

「所得制限なし」「5つの無料化」によって大きな恩恵を受けられる中間層が、戸建てやマンションを買って明石市に移り住んでくる。中間層世帯は共働きで収入源が2つあるダブルインカムが多いですから、これらの世帯は言い換えれば「ダブル納税者世帯」です。中間層世帯は教育にも熱心で、子どもにお金をかけます。子どもに光を当てると、子どもを育てている親たちがお金を使えて、地域経済もまわるようになるわけです。

明石市は子育て支援サービスの無料化に所得制限をかけないことで、子育て層の負担を軽減し、経済の好循環を生みました。「所得制限をかけず、すべての世帯を対象にすると市の財政が圧迫される」などと言う人もいますが、間違いです。「5つの無料化」は納税者から預かったお金の一部をお返ししているだけなのです。

市が損をしているという解釈も間違っています。子育て支援策が市にもたらす波及効果を考えても、所得制限など設けず、中間層を支援したほうが市の財政も潤います。所得制限により中間層を排除する施策こそが、さらなる少子化や地域の衰退を招くことになるのです。

関連記事
イーロン・マスクの「日本は存在しなくなる」発言は言い過ぎではない…急激な少子化を止められるキーマンとは
金持ちの子どもしか大学に行けない…進学率は韓国以下、日本が「子育て地獄」になった根本原因
日本の保育料は高すぎる…月7万を払うため母親がフルタイムで働き子どもと一緒にいられないという本末転倒
なぜ日本は子育て世代にダメージのある政策ばかり講じてきたのか…世界最速で高齢化が進む本当の理由
このままでは「マイナンバーカード」が次々に失効していく…政府が"保険証廃止"を強引に進める本当の理由