「過度の堅実主義は人を殺しかねない」

キャプテンのペレスは、救助隊が来るという自分の信念が裏切られ、精神のバランスを失っていきます。一方で、自力で脱出をしなければと考えていたココやナンドは、自分の気持ちを切り替えて、状況を打破するための模索を始めます。

アンデスの奇蹟』でナンドは、次のようにペレスの姿を描写しています。

「試合場規則(グラウンド・ルール)が変わったとき、マルセロ・ペレスは、ガラスのように壊れてしまった。暗い影の中ですすり泣いているマルセロを見守りながら、私は、はたと思い当たった――こういった恐ろしい場所では、過度の堅実主義は人を殺しかねない」

「私は自分に誓った――この山々に対して、知ったかぶりはやめる、自分の体験という罠にはまらない、次の展開を下手に予想しない。(中略)一瞬一瞬、一歩一歩を、絶えざる不安の内に生きていこう。もう失うものは何もない、何も私を驚かせることはできない」

(ともに同書より)

ラグビーという決められたルールの上で行うゲームでは、その「堅実」な人柄がペレスを優秀なキャプテン(リーダー)にしていました。しかし雪山にはルールを超えた予測できない過酷さがありました。ペレスは異なる現実に直面したとき、新たな現実が求めるリーダーとして豹変すべきだったのです。

結局ペレスは自分を変化させられず、皆に「救助が来る」と信じさせた負い目もあり、自信を失い、リーダーの役割を放棄。彼はその後、雪崩に巻き込まれて死亡します。

写真=iStock.com/surfleader
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極限状態では強権的なリーダーはいらない

救助隊が来ないことをラジオで知り、ペレスが絶望してリーダーの役割を放棄したあと、自力脱出を主張していたナンドがなんとなくリーダーとして期待を集めていきます。

しかし、彼はもともとリーダーとは程遠い資質と性格の持ち主でした。

「私はこれまでの半生で、そのような役割を果たしたことがなかった。私は、いつだって腰が定まらず、流れに任せ、人のあとについて歩んできた。いまも自分がリーダーなんてとんでもない、という気分だった」(同書より)

安易な楽観主義や、期待を過度に高めることは死につながると彼は理解していました。同時に、仲間もすでに極限状態だったことで、強権的なリーダーになろうとはせず、協調的に接しながら相手に動いてもらうことを心がけます。