火に油を注いでしまった「公式見解」
そして、吉川醸造の「お知らせ」から4日後の8月26日。AFURI社は自社サイトに「吉川醸造株式会社への商標権侵害による提訴に関して」と題した公式見解をようやく掲載する。
このリリースの文章だが、弁護士か弁理士が書いたと思えるような、じつに無味乾燥なものだった。AFURI社の主張は、リリースの以下の文章に集約している。
リリース全体を通して、法的、あるいはビジネスの観点から自社の主張が正しいことをひたすら主張しているのだ。
中村社長の「お気持ち表明」、そしてAFURI社の公式見解発表によって、ネット世論はどう動いたか。AFURI社への批判は収まるどころか、さらに激しさを増す事態となったのだ。
何がAFURI社への反発を招き、吉川醸造への共感を高めることになったのか。一言で表すと、「広報戦で勝利するには、大義を背負っている必要がある」ということだ。
広報上手な経営者の「大義を背負う」手法
吉川醸造は前述の通り、AFURI社を「傲慢な存在」と印象付けると同時に、自社を「地域代表」に据えた。つまり、吉川醸造は「公」を背負うことに成功したのだ。反対にAFURI社は自社利益のために、邁進しているに過ぎない。どちらが第三者の支持を集めるかは明らかだろう。「自分のためだけ」に戦う者を、誰も支持しようとは思わないものだ。
この「大義を背負う」という広報手法は、吉川醸造の専売特許ではない。古くから広報の巧みな経営者が共通して用いる手法だ。
代表的なのは、ソフトバンクの孫正義社長だ。携帯会社としてのソフトバンクは、NTTドコモやKDDIと扱っている商品に大差ない。だが、孫正義社長は何かにつけて「情報通信革命のため」という大義を打ち出している。この大義があることによって、競合他社と全く異なる、「カリスマ経営者」としての支持を得ることに成功している。
さて、今回のAFURI社と吉川醸造の戦いはどのような結末を迎えるのだろうか。仮に吉川醸造が法的に負けるとしても、今回の広報戦の完勝によって、有利な和解条件を得やすくなったかもしれない。あるいは、吉川醸造が名称変更を強いられたとしても、リニューアルした日本酒に支援の輪が広がるかもしれない。
いずれにしても「黙って法廷での戦いに判断を委ねる」よりも、実際のビジネスでも有利なポジションを引き寄せることに成功したのではないか。