自殺は「うつ」の必然的な帰結ではない

次に、ダリー値データがないとなかなか分析が容易ではない病気と社会問題との相関についてもふれておこう。ここでは、実例として、うつ病・躁うつ病と自殺との関連度を分析することとする。

うつ状態と自殺はむすびつけられて論じることが多い。しかし、両者はほんとうに関係があるのだろうか。もし関係があるのだとしたら、自殺率の高い国とうつが多い国とは相関しているはずである。そこでそうしたデータの相関図を図表3に示した。

自殺率は死因別死亡率の国際データから得られるが、うつが多いか少ないかのデータは容易には得られない。そこで、上でふれたダリー値を取り上げ、「うつ病・躁うつ病」についての人口10万人当たりの値を算出し、自殺率との相関を探った。

ここで掲げた相関図を見れば、一目瞭然であるように、両者にはほとんど相関が見られない。韓国は自殺率が非常に高くなっているが、うつ病・躁うつ病は最も少ない。逆に、ギリシャは自殺率が最小の国の1つであるが、うつ病・躁うつ病は最も多い国である。

見方によっては、右上がりの正の相関と右下がりの負の相関が打ち消しあっているとも考えられるかもしれない。負の相関の側面があるということは、ヒトは耐えられないほどのストレスを感じると、うつ病・躁うつ病に向かうか、自殺に向かうか、どちらかに帰着する側面があるということになる。

男女を比較すると、男性は女性より自殺が多く、女性は男性よりうつ病・躁うつ病が多いということが知られているが、同じことを示しているとも言えよう。

日本は以前と比較して自殺率の水準は低下したが(一時期は25を超えていた)、それでも対象国38カ国中の6位と高い水準にある。ところが、うつ病・躁うつ病の水準は35位と最も低い部類に入る。

すなわち、日本の自殺率が高いのは、困窮や経済的困難、あるいは責任の取り方といった文化的な側面など、精神状態の悪化によるもの以外の要因が大きく働いているからと考えた方がよいのである。対策についてもこの点を踏まえる必要がある。つらい状態を取り除くことも重要であるが、つらいからといって自殺を選択しないようにすることもそれ以上に重要であろう。