公共放送としての立場を問われているNHK

国民の知る権利とそれを支える言論・表現の自由は、私たちの民主主義を支える根幹であるため、本来ならば、なるだけ政府から独立した存在であるべきです。

にもかかわらず、NHKの経営委員は衆参両院の同意を得て総理大臣が任命し、その経営委員会がNHK会長を選任するよって話なので、これで政治のおもちゃになるなと言われても酷なのも事実です。その経営委員一人ひとりは立派な人物かもしれないけど、NHKというメディアの経営やネットでの情報流通についてはザ・素人を12人選んでNHKを経営しているわけですから、これはもう上手くいくはずがないんですよ。

選任の経緯や過去の問題については、境治さんの記事や塚田祐之さんの記事を参考にされてください。

2021年11月に総務省で「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(以下、在り方検)」が立ち上がる前から、そもそも公共放送とは何か、地上波が衰退しネット全盛に移り変わる現代において放送行政はどうあるべきかはずっと議論がなされてきました。

デジタル情報空間とか、オールIP化などのテーマ別の論点に乗っかる形で、どのような組織体制でNHKが運営され、何を目標に公共放送を再定義し実施するにあたり、いかなるガバナンスでネット時代の公共放送を実現するのか、というビジョンがなければ話にならないのは当然です。

「民放対NHK」という構図は成り立たなくなっている

新聞社各社も通信社も、おカネを取って国民に情報を衆知させるメディアとしての機能を担っているという点で、確かにNHKと同じ土俵だとも言えます。人口減少下の低成長日本経済で、どうやってメディアとして経営を継続するのかという難題に取り組んでいるわけですよ。

例えば、朝日新聞の20年度決算では創業以来最大となる458億8700万円もの大赤字を記録し大騒ぎとなった後、23年3月期連結決算は2年ぶりに営業損益が4億1900万円の赤字となっています。

朝日新聞東京本社(写真=Kakidai/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

テレビ局では、23年3月期決算において民放キー局5社は純粋な地上波衰退の環境から一転、増益基調に回帰してきました。もちろん、地上波単体の事業で言えば四半期で二桁%の売上減というキー局もあります。その下落基調をネットなどで配信される広告による増収や「副業」の不動産事業などでの堅調な収益が業績を下支えしているのは、いわば地上波一本足での経営環境からの脱却を推し進め、ネット配信やイベント興行にも事業をスライドし、いわばコンテンツを作り出す力を起点に収益構造の多様化を推し進めてきた成果であるとも言えます。

一連のNHK改革の論点において、民放連(会長は遠藤龍之介さん・フジテレビジョン取締役副会長)がNHKのネット進出に強い反対意見を出さなくなったのも、これらのネットでの競争において、国内の民放各局対NHKという構図ではないという理解が浸透してきたことが理由とも言えます。

つまり、日本の放送業界やメディア各社がネット業務を巡って戦いを繰り広げるのはあくまでコップの中の嵐に過ぎず、実際には全社が集まっても太刀打ちできないほどの巨大資本になっているNetflixやAmazon、YouTube(Google)やTikTokなどのネットメディアに顧客も広告費も奪われていったことが背景にあるのです。