新聞社は「記者の高給」を維持できなくなってきた

言わば、日本語圏でのメディア各社の競争という時代は過去のものとなり、いまでは海外の大規模コンテンツ企業やSNSメディアとの戦いになっているのだ、という根本的なところを忘れて「NHKが担うべきサービスとは何か」が議論されなければならなくなっている、と言えます。

同じことは、新聞社や通信社、雑誌社などもネット対応を進めて読者からおカネを払ってもらえるコンテンツ制作にシフトする、それが可能になるガバナンスを経営陣が打ち立てる必要があります。

朝日新聞もさすがに分かっていて、全社方針としても頑張ってデジタル化を進めているにも関わらず、それによって得られる収益改善効果よりも既存の新聞記者に支払っている高い給与やそれを支えてきた紙の新聞の売り上げが大きく落ち込んだ結果、新聞社や通信社が抱えてきた宝とも言える優秀な新聞記者と良質な記事が維持できなくなってきたことが、重要な背景です。

大手新聞社ですら収益を生む事業の価値創出に苦労しているのに、環境への対応がむつかしくなっている地方紙(ローカル紙)の問題はより深刻です。そもそも地域に住む人口が減少に転じて久しく、地域経済の縮小が深刻な問題となると、人がいないのにメディア事業が収益を伸ばせるはずがないという状況に陥ります。

これはもう、紙に印刷して情報を読者に届けるという新聞業界全体が、取り返しのつかないザ・不採算となるのは間違いありません。これ以上、高給の記者を置いておくことはできないし、記者クラブや全国の支社を抱えておくこともむつかしい、となると、通信社などから配信されてくる記事に頼りながら、コタツ記事をネットで配信するなどして小銭をかき集めるぐらいしかできることがなくなってしまいます。

積み重ねて置かれた新聞
写真=iStock.com/Razvan
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ロビー活動をしても生き残れるわけではない

大手新聞系列でもスポーツ紙や夕刊紙も厳しい状況に陥っており、ネットで出回る低質な芸能・スポーツ記事は、いまや雑誌社系ニュースサイトよりもスポーツ紙が起点となる状況になってしまいました。ここのネット配信と広告による収益が細ると、本当に地方紙もスポーツ紙も倒産してしまいかねない状況になるのも当然と言えます。

日本新聞協会は、業界団体としてこれらの汲々とした事業の状況を踏まえて必要に迫られ自民党に情けない陳情を繰り返しロビー活動をしてNHKのネット進出で自分たちの最後の畑が荒らされないよう頑張ろうという話なのかもしれませんが、彼らはNHKがネットに来ようが来るまいがそう遠からぬ将来全員死ぬ未来の中にいることを忘れています。

だから潰れればいいのにと言いたいのではなく、NHK同様に、ガバナンスを見直し、コンテンツを扱うメディア事業としてどういうビジョンを打ち立て激変する環境に対応しようとしているのかを考える能力を磨いて粛々と実現させていくしか生き残る方法は無いのだと理解する必要があるでしょう。