母親が覚醒剤使用で刑務所に

認知行動療法のプログラムは優秀で、支援者としては、とても助けになるものです。ただ、そのプログラムだけで盗みがやめられるかというと、そう簡単ではありません。

根本的な「盗まなければならない理由」があれば、どんなに頭で理解しても心がザワザワして、また盗ってしまうのです。

だから、プログラムだけではなく、彼の抱えている心の傷や日常生活での課題を解決していってあげなければ、真の再発防止はかないません。私には、そのミッションも残されていました。

当初私が聞いていたショウ君の家庭的背景として、まず母親が覚醒剤使用で刑務所にいる点が問題でした。会いに来るという約束を破って、突然捕まり刑務所に行き、何年も音沙汰がなくなっていたので、ショウ君から母親への信用はありませんでした。

写真=iStock.com/sakhorn38
母親が覚醒剤使用で刑務所に(※写真はイメージです)

幼いころ亡くした兄の死因は不明

また、幼いころに兄を亡くしていました。当時、警察や児相が介入して捜査・調査しましたが、死因を含めて詳細は不明でした。

母親の話によると、椅子から落ちて頭を打った、とのことでした。

小学校の低学年のころから家出を繰り返し、家に帰りたがらなかったことから、児相に一時保護され、施設暮らしが長い子でした。

兄との死別、母との予期せぬ分離など、彼の心の傷が深いものであることは想像に難くありませんでした。

私は、その傷にも触れるべき時機だろうと考えていました。

何をやっても問題行動が収まらないときは、傷が心の中で膿んでしまっている状態なのです。心の外科的手術が必要な時もあります。