一流のノンフィクション作家は風景描写に秀でている
文章表現で一番容易なのは、自身の心理描写である。自分のことは自分が一番よく分かっているからである。反対に最も難しいのは風景の描写だと私は考える。
一流のノンフィクション作家は風景描写に秀でている。
『サンダカン八番娼館』山崎朋子/文春文庫
この文章は、「からゆきさん」と呼ばれる海外売春婦を研究する筆者が、天草の田舎に老婆を訪ねていくシーンである。わずか188文字の情景描写によって、筆者の心細さとか、老婆の暮らす家の貧しさとかが、明確に説明されている。その結果、老婆の孤独や哀れさが浮かび上がってくる。こういう文章を書けるように腕を磨きたい。
新聞で頻出する「定型文」
(2)定番の表現
新聞業界には「ナリチュー」という言葉があると聞いた。これは、「成り行きが注目される」の略だそうだ。新聞記事で最後の締めの言葉に困ると、つい「成り行きが注目される」を使ってしまうことがある時期に流行ったそうだ。同じ表現を繰り返し目にすれば、読者は白けてしまう。あるときから業界では「ナリチュー」は禁句のようなものになったらしい。
ただこうした定番の表現は新聞記事を含めて今でもよく見かける。
例えば、インタビューに答えた政治家やスポーツ選手が何かの疑問を口にすると、締めの言葉は「〜と首を傾げる」となっていることが多い。実際にその人物が頭を斜めに倒したのであれば構わないが、これは定型文ではないか。
また、経営に行き詰まったり、天候の影響で作物が十分に採れなかった場合、締めの言葉は「〜と頭を抱える」となる。これも本当に両手を頭の上に乗せて俯いたのであろうか。