「世間の基準」をどのように捉えるか

実際、現代社会においては、「孤独を恐れない体質」のほうが、よっぽど有利に生きられる面が多々あります。

発達障害や統合失調症的な傾向のある人たちに見られるような、突出したある種の能力や才能を見れば、本当は彼らのほうが、優位な特性を持つ人間ではないかと感じます。

アカデミー賞の作品賞などを受賞した映画、『ビューティフル・マインド』でその人生を描かれた実在の数学者、ジョン・ナッシュが、まさにそんな人物でした。彼は統合失調症に陥り、他者との人間関係をほとんど作ることができなくなります。

けれども、ナッシュはまったく孤独感を覚えません。なぜなら、自分の周囲には、相談役のような人間が常に幻覚として見えていたからです。

彼は最終的には、“世間の基準に照らし合わせると”、自分が病気であることを理解しますが、その傾向を薬で抑え込んでしまえば、数学の研究にとってマイナスの影響があるからという理由で、薬の服用を避けたといいます。

ほかにも、「絶対に解読できない」とされたナチス・ドイツの暗号機「エニグマ」による暗号文を解読した、アラン・チューリングという数学者がいます。彼も大天才だったのですが、自閉スペクトラム症の気があり、文科系の学問がいっさい理解できないという理由で、母国イギリスでは、パブリックスクールの入学を拒否されました。

そのため地元の評判のよくない中学校に入り、哲学や歴史などの人文系の学問をまったく知らずに大人になったのですが、それでもケンブリッジ大学に進学し、難解な暗号を数学的に解読することに成功しました。

ただ、当時の社会は、彼のような人間に対して、決して温かかったわけではありません。彼は40代で、自らの命を絶つ道を選んでしまいます。

写真=iStock.com/metamorworks
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孤独は最大の武器になる

日本でも、『孤独がきみを強くする』(興陽館)という著作がある芸術家の故岡本太郎さんは、子供のころから周囲の人間関係になじめず、転校を繰り返していたといいます。おそらく、今でいう発達障害を抱えていたのでしょう。

高田明和『65歳からの孤独を楽しむ練習 いつもハツラツな人』(三笠書房)

けれども、彼の孤独を好む傾向は、創作活動に集中するのに好都合だったわけです。岡本太郎さんがどれほどの孤独を感じていたのか、私には知るよしもありませんが、彼は、誰かに理解されようなどとは考えず、ひたすら自分の内面世界を表現することに情熱を捧げました。それが傑出した芸術作品の創造につながったのだと思います。

数学者と芸術家の例をあげましたが、研究職、スポーツ、音楽、囲碁・将棋、ビジネス……どの分野においても、孤独だからこそ輝いた才能は、確実にあります。

孤独が最大の武器になる――それは仕事にとどまらず、趣味の分野にも当てはまるでしょう。

孤独を恐れる人は多いのですが、「孤独だからこそできること」「孤独でなければ究められないこと」も、確実に存在するのです。それを見つけていくことは、孤独を楽しむ練習となります。

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