ワキガには「メスをいれる治療」しかなかったが…

他には局所注射の「ボツリヌストキシン注射」を使った治療法もあります。これも汗を出すように指令する神経をブロックすることで、エクリン汗腺からの発汗を抑制します。ボツリヌストキシンを両脇に15カ所程度ずつ注射することで神経伝達を阻害し、発汗を抑制します。「ボツリヌストキシン注射」は痛みはありませんが、数カ月しか効果が持続しないため、必ず再発します。

このようにワキ汗に対する薬や注射を使った治療はすぐに始めやすいですが、中止すると再発するので、根本的な解決にはなりません。

またワキガを根本的に解決する治療法というと、効果的な塗り薬や飲み薬はなく、これまでは「メスをいれる治療」しか選択肢がありませんでした。これは「皮弁法」とよばれる保険適用の手術で、局所麻酔を行い、脇の下を切開してアポクリン腺のある皮下組織を切除し、皮膚を戻す方法です。

ワキガの原因を元から断つため、効果は半永久的に続きますが、手術による傷跡も大きく、術後はワキを1週間程圧迫固定し、安静に過ごさなければいけないなど患者さんに負担がかかります。

「グレーのTシャツが着られるようになった」

ワキガ治療については、このように手術以外に決め手に欠ける状態が長く続いていましたが、2018年から「ミラドライ」が治療に使われるようになりました。これはワキにマイクロ波を照射することで、アポクリン腺とエクリン腺を同時に根本的に破壊する治療器で、原発性腋窩多汗症(ワキ汗)の治療器として厚生労働省の薬事承認を受けています。

日本国内ではワキ汗のみの薬事承認ですが、日本の厚生労働省に近い役割を持つアメリカのFDA(Food and Drug Administration/アメリカ食品医薬品局)では腋臭症(ワキガ)の適用も取れています。私のクリニックでも効果やリスク、合併症等を説明した上で、ワキ汗やワキガに悩んでいる患者さんにミラドライを照射しています。

当院では2020年から現在まで、253人の患者さんに施術をしており、ワキ汗に関しては8割以上の方が「グレーのTシャツが着られるようになった」「人前に出るのが恥ずかしくなくなった」などの効果を感じており、ワキガについても8割以上の方が「ニオイが気にならなくなった」とおっしゃっています。こうした新しい治療法がインターネット検索などによって知られるようになったこともワキ汗やワキガに関する相談が増えた理由でしょう。

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「ミラドライ」の治療は痛みも少なく、傷跡もほとんど残らない上に、治療回数も基本的には1回で済むというメリットがあります。しかし、保険適用ではなく、自費治療となるために費用が高くなり、クリニックによっても費用が異なります。また、過去には適応外の陰部へミラドライの治療をした後、フルニエ壊疽という重症の感染症になり、患者さんが死亡した事故も起きており、注意が必要です。