複数の企業のビジネスを数珠つなぎにする

数百億、数千億円規模の事業を創造しようと思えば、1社だけで実現することはまず不可能です。複数の企業との連携が必要不可欠となります。

また、社会課題の解決をビジネスにするためには、業界を超えた様々な企業(時には国や自治体も)に参画してもらう必要があります。そして、それら複数の企業のビジネスを数珠つなぎのようにつなげていくところに、ビジネスプロデュースの肝があります。

1対1のギブアンドテイク型のビジネスにするのではなく、連携する企業のビジネスをいくつも組み合わせて、グルッと回る仕組みを作る。これができて初めて、ビジネスプロデュースの巨大なエコシステムが完成し、ビジネスが回り始めます。

このエコシステムを構築するのは非常に難しく、そのための労力も甚大です。ただ、参画企業のビジネスが足し合わされる、場合によっては掛け合わされるので、事業規模が大きくなり、皆が利益を得られるというわけです。

日本企業は内製を重んじ、自社内、あるいは自社グループ内ですべてを完結させることで数々のビジネスを成功させてきました。その成功体験が強く残っている企業ほど、すべてを自分たちでやろうとします。すると、社内のしがらみにからめとられ、どうしても内向きになってしまいます。これも、新規事業が大きく成長しない原因の1つなのではないでしょうか。

そんな企業であっても、社会課題の解決のためであれば、参画しやすくなります。グループ外の他企業と連携する大義名分ができるからです。

今後のビジネスで大切なのは、「つながり」かもしれません。業界という枠が崩れ、業界を跨いだ新しい市場ができはじめている昨今、強いのは、業界を超えて「つながれる」企業です。逆に言えば、既存の業界に固執している企業は、異業種のプレイヤーに簡単に飲み込まれてしまうことでしょう。

写真=iStock.com/metamorworks
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豊田市の介護予防事業のケース

「グルッと回る仕組みを作る」とは、どういうことか。イメージをつかんでいただくために、ドリームインキュベータが愛知県豊田市で2021年に始めた介護予防事業を紹介しましょう。

この事業で取り組んでいる社会課題は、自治体が負担する介護費の増加です。

介護費は地方自治体が一部を負担していて、年々その額が増えています。豊田市もその典型でした。では、この社会課題を、どのように解決するのか。あなたなら、どう考えますか?

介護費を減らすためには、介護を必要とする人を減らすことが必要不可欠です。そこで色々と調べてみると、社会参加する機会が多い人たち、例えば、スポーツをしたり、同じ趣味を持つ人たち同士で集まったりしている人たちは、介護が必要になる時期が遅くなるということがわかりました。毎日歩いて、楽しくおしゃべりするだけでも、認知症予防になり、介護を必要とする時期を遅らせることができます。

「ということは、高齢者向けにスポーツや趣味の会をする場を提供するようなビジネスを展開すれば、介護費を減らせるのではないか」。そう考えた方もいるかもしれません。

そうなのです。でも大事なのはここからです。

さらに調べると、健康なときの生活実態と要介護認定を受ける時期の関係について、過去のビッグデータを分析した「日本老年学的評価研究プロジェクト」という医学的な研究があることがわかりました。この研究結果を活用すれば、現在の生活状況や活動のレベルを把握することで、将来の要介護度と介護費を予測することができます。