コーチが見ているのは「もう1歩を踏み出せるか」

この猛烈に辛いテストが、代表合宿1カ月間のうちになんと2度も行われる。

通常、このテストはどんなスポーツのどんなチームでも、年間に1度、せいぜい半年に1度程度しか行われない。持久力を短期間に何度も測定しても、あまり意味がないからだ。

それが1カ月間で2度。

「頭おかしいんじゃないかな」と僕だけではなく、選手全員が思っていたはずだ。

実は、このテストでジェイミーが見ていたものは記録や持久力ではない。

「誰が、最後まで全力で走るのか」

彼が知りたかったのは、その一点だ。

極限に苦しい時、どんな状況でも、もう1歩を踏み出せる選手、自分の持てるエナジーの全てを絞り出せる人間かどうか。ジェイミーはそこを見ているのだ。

だから、測定結果的に良い記録を出しても、ゴールラインを余裕を持って越えていたような選手は評価されない。記録自体は悪くても、最後の最後、ゴールラインに倒れ込むようにダイブしてなんとしてでも制限時間内に入ろうとする選手が評価される。

真面目さ、我慢強さが日本代表の大きな武器に

大事なのは結果じゃない。

自分の全てを、最後の1滴まで絞り出せるかどうかだ。

ジェイミーからの、そういうメッセージだ。

こうしたトレーニングは、世界の強豪国を見渡しても絶対に日本代表しかやらないし、やれない。断言できる。どんなにキツい厳しいトレーニングでも、「全部、真面目に取り組む」という国民性を持っているのは日本だけだ。

それを裏付けるような、こんな笑い話がある。

姫野和樹『姫野ノート 「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)

前任のエディー元ヘッドコーチは日本代表ヘッドコーチを退任した後、イングランド代表のヘッドコーチに就任したのだが(2023 年7月現在、オーストラリア代表ヘッドコーチ)、彼は日本代表の時と同じように練習開始時間を早朝5時に設定した。

だが、イングランド代表の選手は誰1人、グラウンドに来なかったそうだ。

「朝5時でもちゃんと全員来る」というのが日本代表、日本という国の真面目さであり我慢強さを表していると思う。

そして、それこそが、日本代表の大きな武器の1つでもある。

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