「ウィンブルドン現象」が金融機関でも起こっている

しかも、この不正操作については、イングランド銀行副総裁からの示唆があったという報道も流れ、LIBORに関わる不正操作が一層スキャンダル化している。08年9月15日のリーマンショック前後において、サブプライムローンの証券化商品の不良債権化が拡大するなか、各金融機関がどれほどその不良債権化した証券化商品を保有しているかわからず、金融機関がお互いに銀行間取引において疑心暗鬼となり、いわゆるカウンターパーティ・リスクが高まった。そのような状況のなかで、08年10月29日にPaul Tuckerイングランド銀行副総裁がBod Diamond経営最高責任者(CEO)に電話した内容が、Jerry del Missier最高執行責任者(COO)に伝えられた段階で、バークレイズによるLIBORの申告金利が他の銀行に比較して高すぎるから、引き下げよという指示であると理解され、申告金利を低めに虚偽申告したとされている。

自己申告制に基づいて成立しているLIBORの形成に際して、ある一つの特定の銀行が申告金利を虚偽申告することは、自己申告制の前提となっている「英国紳士は虚偽の申告をしないはず」という期待を裏切ることとなり、LIBORの信頼性が揺らぎかねない状況になっている。一方で、ロンドンの金融センターであるシティ(最近では、再開発されたロンドンのカナリー・ワーフに金融機関が集まり始めている)は、金融ビッグバンをきっかけに、イギリスの金融機関のみならず、世界中の金融機関が自由に活動できることで、その発展を見てきた。ロンドン郊外のウィンブルドンで行われるテニスのウィンブルドン大会では、海外から強豪選手が多数集まって、ウィンブルドン大会が活況を呈したものの、イギリスの選手が活躍する姿が見られなくなったことから、このような現象はウィンブルドン現象と呼ばれている。このようなウィンブルドン現象がシティでも起こっている。もはやシティの金融機関は、英国紳士によって経営されていないのかもしれない。ちなみにBob Diamondはアメリカ人である。LIBORの前提となる自己申告の公正性が維持されなければ、LIBORの信頼性は失墜するであろう。

LIBORが異常値を排除する刈り込み算術平均法によって算出されている制度を所与とすると、ある一つの特定銀行によってLIBORが不正操作されることは難しいと考えられている。他行が関与していたかどうかは、今後の調査・捜査によって明らかになることと思われるが、シティにおけるLIBORの組織的な不正操作の有無が明らかにされないかぎり、LIBORの信頼性の復活は難しいかもしれない。

最後に、09年に始まってまだその解決を見ない欧州財政危機のトリガー(引き金)を引いたのは、ギリシャ政府の財政赤字の統計上の改竄であった。このような改竄は象徴的に当該当局・機関の信頼性を失墜させる。同様に、LIBORの虚偽申告・不正操作がトリガーとなって、シティで活動する銀行の信頼性、さらには当局の信頼性を失墜させる可能性が大いに懸念される。

※すべて雑誌掲載当時

(図版作成=平良 徹)
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