「もう頑張らなくていいよ」というメッセージが伝わってしまった

この社長が、50代社員向けのキャリア研修の通称が、たそがれ研修であると知っていたかどうかは、わからない。またこの社長は、受講者を励ます意味で、良かれと思ってこの挨拶をしたのだろう。だからこそ、一層問題だろう。社長は無意識のうちに、シニアとは終盤を迎える存在だと考えている。そこにはシニアとは、サードエイジを迎えて新しい活躍を始める存在という認識は低いだろう。そのため受講者たちには、「もう頑張らなくていいよ」というメッセージが強く伝わってしまった。これは、組織側の無意識のエイジズム(アンコンシャス・バイアス)による悪影響とみなすことができよう。

キャリア研修の内容自体にも、意図せざる悪影響があるかもしれない。筆者とパーソル総合研究所が、40代〜60代のミドル・シニア2300名に実施した調査では、マネープラン研修は、ミドル・シニアの活躍を阻害する影響があるという分析結果が出ていた。企業がミドル・シニアにマネープラン研修を実施する意図は、退職金、定年後の社会保険、年金の実態も理解したうえで、将来に向けたキャリアを考える参考にしてほしいということだろう。そのため、50代社員向けのキャリア研修の一部にマネープランが組み込まれる場合もあるだろう。

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企業は定年後のためによかれと思っても、やる気がダウン

これは組織としては、社員に良かれと思って実施していることだ。ところが社員側が受け取るメッセージは違ったものになる。定年後の年金の状況や、その場合のマネープランのコツを綿密に伝達されることで「定年後のお金をしっかり考えろということは、組織は自分に働き手としては期待していないんだな。ここで働くことよりも、老後の生活設計を考えなければ」と考えてしまうかもしれない。そうなるとやる気がなくなり、低い成果へと自己成就することになりかねない。また、これが50代社員向けのキャリア研修が、たそがれ研修と呼ばれてしまうゆえんだろう。

組織としては、無意識のエイジズムの存在に気をつけるべきであろう。特にキャリア研修の設計については、意図が誤解されないように点検する必要があるだろう。たとえば従来のマネープラン研修は、退職金、定年後の社会保険、年金という会社を辞めた後のことに焦点をあてていた。しかし最近は、NISA、iDeCoなどによる生涯資産形成に焦点をあてたマネープラン研修が登場しているそうだ。こうした内容の変化があると、社員側が受け取るメッセージは変わっていくと考えられる。