飲酒量と所得の関係は「疑似相関」だった

1日あたりの酒量は倍近く違うものの、アルコール耐性が強い人の酒量は純アルコール量に換算して28mlと泥酔するまでの量でもない。となると「飲みすぎによる仕事効率の低下」という線も考えられない。酒飲みにとっては非常に残念だが、やはり研究結果の通り、「酒に強かろうが、弱かろうが所得はそう変わらない」、「ビジネス的に酒に強い人が優位ではない」ということは否定しがたい。

ではこれまで信じられてきた「酒が飲める人のほうが、飲めない人よりも稼ぎがいい」という説は、いったいどういう研究から導かれたのだろうか? どうやら川口教授が冒頭で話した「気になる点」と関係がありそうだ。

「これまでの研究は単に酒を飲んでいる人と、飲まない人の比較にすぎませんでした。つまり、人が選択した行動の結果で分析する“観察研究”でしかなかったのです。そもそも酒を飲む人は外交的な性格で、酒を飲むことで仕事が円滑になる商社の営業職に就いていることも多々あります。また、そういうタイプの人は、もともと所得が高い可能性も否めません。つまり酒を飲む人と飲まない人では性格や職業が異なるため、飲酒量と所得の関係は疑似相関でしかないのです」(川口教授)

過去の研究は「もともと酒に強い人種」が対象

疑似相関とは、一見2つの事象の間に因果関係はないのに、別の要因によって因果関係があるように推測されてしまうことを指す。酒をよく飲むことと、所得に関しても因果関係がありそうに見えるが、川口教授が話すように、そこには「性格」や「職業」といった別要因が隠れている。

今まで酒を飲まなかった人が、酒を飲むようになったら所得が上がるかといったら、そうとは言い切れない。また飲む量が増えるほど、所得が上がるわけではないし、飲む量が減るほど所得が下がることもない。こうした観点からも酒と所得の間には、因果関係がないことがわかる。