「やっぱりフィジカルだな」

「松井秀喜選手を観にアメリカから来たスカウトを横浜スタジアムにアテンドしたことがあります。

『彼はパワーヒッターか?』と聞かれたので『日本ではそうだ』と言いましたけど、当時のヤンキースでいえばジェイソン・ジアンビとか、日本にはいないスゴい打者がいる。そんな中で成績を上げないといけなかった。

松井選手はアメリカに渡る時、すでに29歳になっていましたから、ゴロキングだとか言われながらも反対方向に打ったりして何とかアジャストしていった。

でも大谷選手はもっと若くアメリカに渡った。そして目の前にマイク・トラウトがいた。移籍当時はアルバート・プホルスという大打者もいた。

大谷選手はそうした大打者からメジャーに生き残る知恵を学んだと思う。そして、生き残るためには『やっぱりフィジカルだな』と分かった。

それも日本の選手が『肉体改造だ』ってオフの3カ月ほど筋トレするような短絡的なものではなくて、6年間絶え間なく鍛え上げて、今の身体を作った。もちろん、今も鍛えていると思います」

写真=iStock.com/USA-TARO
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チームメイトであるトラウトの存在

ここで、近年のMLBで起こっている「変革」について、簡単に説明しよう。MLBでは統計学に基づく情報戦略(セイバーメトリクス)によって、打球の方向性を予測して守備位置を変更する「極端な守備シフト」が流行、打者の成績は急落した。

それに対抗するために編み出されたのが「フライボール革命」だ。「投球に対して一定の角度(バレルゾーン)、一定以上のバットスピードで打球を打つとホームランになる確率が上がる」というシンプルな理論。これを実践する選手が続出し、投打のバランスは再び変わった。

「大谷選手は『フライボール革命』をちゃんと理解しています。単にフライを上げるのではなく『バレルゾーン』が大事だということも。

2018年にこの理論を本格的に実践した一人が大谷選手のチームメイトだったマイク・トラウトでした。彼はそれを見ていた。移籍した当時の大谷選手は打席ではまだ足を上げていて『投手としてはすごいけど、打者としては高校生』なんて批評家に言われた。それをノーステップに変えてメジャーの投手に食らいついていった」