無責任な経済学者や経営学者がいるのは事実です。現場の知恵のほうが役立つこともあるでしょう。とりわけ理論から機械的に出された結論は、単純なケースほど穴だらけで使えません。東大卒業後に起業を目指す人は数多くいますし、アメリカやイギリスの二大政党制は日本の状況とは異なります。理論は全体の傾向を示すだけで、個々の事例で完全な答えを導いてはくれません。

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平均年収が高い大学ほど起業しづらい!?

しかし経済理論の知見を活かせば、100点満点のうち75点ぐらいなら安定してとれるのです。日本企業は伝統的に「コスト優位戦略」を重んじてきました。コストダウンと品質向上で成長を目指す手法です。一方、欧米企業は1990年代以降、「差別化戦略」に力を入れてきました。コスト競争の無間地獄を避けるため、絶えず新市場の形成を図る。日本の高い技術力がなかなか利益に結びつかないのは、経済学の蓄積が活かされていないからだと思えます。

私の本業は経済学者です。09年、「水指丈夫」という筆名で、小説『東大を出ると社長になれない』を書きました。匿名にすることで、学術的にはやや不正確でも、経済学や経営学の大枠をつかめるものを書くことができました。

わかりやすさと正確さは反比例することがあります。たとえば小学校の算数では「2」から「3」は「引けない」と習います。もちろん数学では誤りで、正しくは「マイナス1」。しかし「負の整数」というややこしい説明よりも、ひとまず「引けない」としたほうが理解は早い。経済学者はこれまで、このようなわかりやすい書き方を避けてきました。しかしそれでは興味をもってもらえません。

この小説では、野放図な計画で喫茶店開業を志す主人公が、「目的は金儲けなのか、個性ある店作りなのか」と年長者にたしなめられ、経済学の基礎を学びながら事業計画をあらためていきます。目標設定を明確にし、その手順を導き出すうえで、経済学は大変有効な道具です。大学時代の授業などで苦手意識をもつ人もいるようですが、ぜひ便利な道具として使ってもらえればと思います。

※すべて雑誌掲載当時

(プレジデント編集部=構成)