無理して店の営業を続けたら危険すぎる状況

「ところが都の要請を無視して営業している飲食店もチラホラあって、これは面白くなかった。一部のスナックとか居酒屋は夜8時で出入口を閉めてネオンや看板灯を消すんですが、店の中には客が残っていて飲み食いさせている有様です。正直者が馬鹿を見ると思いました」

自分の店も普通通りに商売しようかと思ったが、もし自分の店がクラスターの発生源なんてことになったら、どれだけ攻撃されるか分からないから我慢した。だけど国や自治体のやることは納得できないと怒っている飲食店は多いと思った。

「廃業を決意したのは2021年の2月です。年明けからまた感染者数が増えてきて、まん防適用ってことになりましたから、もうやっていけないと思いましたね。5月が店の賃借契約の更新なんですが続けていく自信がなかった。

家賃は変わらずだったけれど更新料は必要。売上げの回復も見通せなかったから、ここはきりのいいところで閉めた方が無難だと思ったわけです」

建て替えられた駅ビルに進出してきた飲食店は7店もあったが、天ぷら専門店、ステーキハウス、インド料理店が閉店し、そのあとは埋まっていない。

同じ商店街で営業していた定食屋とラーメン専門店もいつの間にかなくなっていて、そのあとはずっとシャッターが下りたまま。こういうのを見ると、無理して続けたら危険だと感じたのだ。

「店の原状回復工事や粗大ゴミの処理費は預け入れていた保証金で賄えました。持ち出しはありません。借金もなかったのできれいに閉店できた」

時給1200円の精肉加工センターの契約社員へ

閉店後は夫婦揃ってハローワーク通い。2カ月でなんとか働き口を確保できた。

「わたしは電鉄系スーパーの精肉加工センターで働いています」

仕事内容は牛、豚、鶏の肉やハム、ベーコンなどの加工品を店舗用にカットし、パック詰め、ラベル貼りをして専用の輸送箱に入れるという作業。

写真=iStock.com/Alberto Gagliardi
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「契約社員ということでして。とりあえず社会保険には加入できている。だけど賃金は時給制なんですよね。住宅手当とか家族手当はない、ボーナスも退職金もありません。正社員じゃないから仕方ないのかな、釈然とはしないけど文句を言ってクビになるのは怖いし」

時給は1200円、ローテーション勤務で4週6休。残業が40時間ぐらい。先月の給料は約29万円で手取りだと25万円ぐらいになる。

「面接のとき、うちはメリットが盛りだくさんだと言われまして。何ですか? って聞いたら社食はワンコイン、バイク通勤の場合はガソリン代支給だということでした。笑ったのは冷所での作業なので、背中や腹部に貼る分と長靴の中に入れる分のカイロを毎日支給する。至れり尽くせりだろって言っていましたよ」