道路工事に伴い30%以上の売上げ減

ずっと堅実経営でやってきたが周囲の状況が変わり、少しずつ翳りが出てきた。

「最初の変化は最寄り駅から店があった一帯にかけての再開発事業です。これで人の流れが途絶えてしまいました」

バスターミナルと駅前広場の整備、テナントビルの建て替え。これらの工事が16年の中頃から始まり、交通規制と道路の一部封鎖などが実施されたのだ。

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「まず店の前の通りは2車線だったのが1車線に変更されたんです。パーキングメーターも撤去されたものだから、常連だったタクシーやトラックのドライバーさんが来てくれなくなった」

最大の痛手は、駅前のロータリーから店まで続いていた道路が工事に伴って一部封鎖され、迂回うかい路が作られたこと。これで地域の人たちの流れが激変した。

「駅の向こう側にある大学の学生は通りを一直線に来るだけだったのに、工事後は東側に70メートルぐらい行って、そこでUターンしなきゃならない。残念ながら、そこまでして来る店じゃありませんから」

店はごく普通の町中華店で名物的なメニューはない。ここでなければ食べられないという料理はないから、わざわざ遠回りしてまで来る人は少なかった。

「工事期間は1年4カ月ぐらいでしたかね。その間は30%以上の売上げ減でした」

工事が終わったら終わったで、建て替えられた複合ビルに多種多様な飲食店がオープンしたものだから、客足が完全に前のように戻ることはなかった。

「お酒は出すな、話はするな、夜8時で閉店しろ」

「それでも何とか踏ん張ってたんです。苦しかったけど致命的というわけじゃなかった」

食材の調達先を見直したり、それまではやっていなかった出前を受けたりして減収分の3分の1ぐらいは挽回できていたが、そこに追い討ちをかけてきたのがコロナウイルス。これでどうにもならなくなった。

「都知事が営業するなっていうわけだから、手も足も出ませんよ」

それ以前に他者との接触を嫌う人が多く、都からの通達がある前から客数が落ち込んでいたのも事実。特に学生がリモート授業になったため登校しなくなり、まったく来店しなくなった。

「テイクアウトもやってみたんですが、商売になるほどではなかった」

数種類の弁当、一品料理を並べてみても売れ残りが出る日もあり、減った売上げの回復にはほど遠かった。

「規制が少し緩和されても客は定員の半分しか駄目。お酒は出すな、話はするな、夜8時で閉店しろでは商売にはなりませんよ」

感染者が増えたらまた自粛、少し減ったら緩和。いたちごっこだった。

「売上げで言うと最悪期は7割減という惨状です。世間全体がコロナ慣れしてきた頃に少し戻ってきましたが、それでもコロナ前の6割ちょっとという感じでした」

申請して協力金を支払ってもらったが焼け石に水。辛うじて赤字にはならなかった程度だった。