「もっと飲みたい」から泥沼にはまっていく

適量のお酒を飲むと脳の機能が軽く低下し、その鎮静作用から多幸感に包まれたり、ふわっとしたいい気分になったりするなど、いわゆる酔った状態になるのです。すると、その快感に引っ張られてもっと飲みたくなります。

誰とでもスムーズにコミュニケーションできるようになったり、イヤなことを発散できたりすると、それがもっと飲みたくなる引き金になります。そして、酒席で「うれしい」「成功できた」「満足」などの快感を繰り返し味わうと、「お酒はとてもいいものだ」と思うようになり、どんどん好きになっていきます。

シャイな人でも飲むと抑制がとれてラクにしゃべれたり、普段しゃべりづらいことがスラスラ話せたりするので、その効用はビジネスにも利用されてきました。宴席を設けて相手から本音を引き出したり、根まわしをしたり……。

ただし、いつも飲んでいるとやがてアルコールへの耐性ができてお酒に強くなり、ないと物足りなく感じてしまい、多量飲酒が習慣化していきます。これこそ多くの飲酒者がたどるパターンで、飲めば飲むほど薬物としての副作用が表れ、心身にさまざまな問題が起こってきます。

これは健康障害に限ったことではありません。仕事のミスが増えたり、家庭内でもめ事が増えたりするなどのさまざまな飲酒問題が生じるようになり、やがて依存症という病が進行していきます。メリットにつられて飲んでいるうちに薬物としての副作用が強く表れ、自力ではコントロールしづらくなっていくのです。

安価で手に入りやすいわりに得られる報酬が大きい

私たちはなぜ適量を簡単に踏み越えてお酒を飲んでしまうのでしょう。多くの人が、なぜアルコールという薬物に依存していくのでしょう。

それは、脳にとっての魅力、報酬が投資に対して大きいからです。

アルコールがもたらす「報酬」を脳の仕組みから見ていくと、カギを握っているのは「ドーパミン」です。

ドーパミンはやる気、元気、ハッピーな気分の素となる快楽物質です。

脳の精神活動は、数十種類ある神経伝達物質がそれぞれの神経系で活性化することで起こります。脳内報酬系でドーパミンの分泌が増えると、多幸感、心地よさ、意欲向上などを自覚し、薬物への精神依存が形成されます。

アルコールは、少量でも効率よく報酬系でドーパミンの分泌を促します。また、セロトニンとオピオイドという神経伝達物質の分泌も増やすので、不安や心配などの“負の感情”を吹き飛ばし、苦痛を忘れさせることもできます。

この相乗効果で、情緒的には実に魅力的な薬理効果があります。こういう便利なものが安価ですぐ手に入るので、ハマりやすく、適量を簡単に踏み越えて飲んでしまうのです。

この投資に対して得られる報酬が大きいということこそ、アルコールの魅力であり魔力だと言えます。