努力して成功体験を得るより手っ取り早くドーパミンを出せる

ドーパミンは飲酒したときに限らず、日常のさまざまなシーンで分泌されます。楽しい趣味の時間、美味しいものを食べているとき、ゲームに熱中しているとき、恋愛でときめいたとき、また「成功体験」もドーパミンの重要な刺激剤です。

たとえば、一生懸命勉強して難関校に合格したり、仕事が評価されて「やった~」「うまくいった」と大喜びしたりしているときは、脳内にドーパミンがあふれ出ています。努力が報われた喜びや快感は次のステップにつながり、いい方向に作用するでしょう。

ただし、このような成功体験を手にするには相応の時間を投資しなければいけないし、投資しても確実にうまくいくとは限りません。それに比べて、アルコールはいつでもどこでも簡単に、確実に気持ちよくしてくれます。人は易きに流されやすく、仕事や勉強をコツコツやって得られるドーパミンの量をたった数分で得られるとなれば、ついそちらに引っ張られてしまうものです。

飲酒を続け、やがてドーパミンによる快感に慣れてくると、シラフで「さあ、今夜は居酒屋で一杯やるぞ」と思った瞬間、反射的にドーパミンがどっと出てきます。まだ就業中でもすぐ仕事を切り上げたくなるほど、アルコールの報酬は魅力的なのです。お酒を飲めばまたドーパミンが出てたくさんの報酬が得られるので、「もっと、もっと」と勢いづいて飲んでいると、やがて危険なゾーンに入ってきます。

ビールで乾杯をする3人のビジネスマン
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禁酒で起きる離脱症状は半年もすれば和らぐ

報酬系にとっては適切なドーパミン活性が維持されているのがいい状態ですが、それが過剰になると神経にとっては毒になります。多量飲酒が習慣になりドーパミンがいつも出ている状態が続くと、脳はその影響を減らすために「神経順応」という反応をします。

これは動物実験やアルコール依存症者の脳画像の研究からわかっていて、過剰なドーパミンの影響を受けにくくするために、ドーパミンの分泌量や受容体の密度が低下するのです。専門的には、この反応を「ダウンレギュレーション」と呼びます(※)。その状態で禁酒をするとドーパミン活性が不足し、離脱症状が起きる原因の一つになります。

Neurobiology of alcohol dependence and implications on treatment.
Esel, E., & Dinc, K. (2017). Neurobiology of alcohol dependence and implications on treatment. Turk Psikiyatri Dergisi, 28(1), 1-10.

ここまでくるとなかなか元には戻れません。禁酒をすることで、今度はドーパミンの分泌量や受容体の密度が増えていくことを期待しますが、そうなるかはわかっていません。

臨床的には、うつ病などの病気が合併していない限り、禁酒開始後に起きる意欲低下や気分の落ち込みは一過性です。その他の離脱症状も半年もすれば和らいで、脳が回復してきたことを感じられるでしょう。