まずは「節制」から始める
私はすべての徳目を習慣として身につけるつもりだった。だが、一度に全部やろうとすると注意が分散されると思い、まずはひとつの徳目に集中し、それを身につけたら次の徳目に移るという方法で、ひとつずつ順番に修得することにした。そして、徳をひとつ修得すれば次の徳を身につけるのが楽になると考え、13の徳目を先ほど挙げた順番に並べた。
第1の徳を「節制」にしたのは、節制を通じて、冷静かつ明晰な頭脳を手に入れられるからだ。そのような頭脳があれば、古い習慣に引っ張られても、さまざまな誘惑に襲われても、警戒心をもって対処できる。そして「節制」を身につければ、次の「沈黙」を修得するのがいくらか簡単になる。また私は、徳を身につける生活のなかで知識も得たいと考えていた。知識を身につけるには、舌よりも耳のほうがずっと役に立つ。
そこで、仲間内でのむだな話や、つまらないしゃれや冗談を言う習慣をやめようと思い立ち、「沈黙」を第2の徳目とした。これと次の徳目「規律」を守れば、自分の計画や勉強にあてる時間が増える。
そして第4の徳目「決断」は、ひとたび習慣として身につければ、その後は確固たる意思をもって徳を修得していける。「倹約」と「勤勉」をきちんと守れば、いつか残りの借金から解放されるだろうし、借金を返済して自分だけの力で生活していけるようになれば、「誠実」と「正義」をはじめ、残りの徳目も実行しやすくなる。
新しい徳目は「1週間にひとつ」
私はピタゴラスの『金言集』の忠告に従い、自分の行動を毎日欠かさず精査することにした。私が用いたのは次のような方法だ。
まずは小さな手帳をつくり、ひとつのページにひとつの徳目を割り当てる。次に、各ページに赤インクで縦線を引いて7つの欄をつくり、それぞれの欄に曜日の頭文字を書き込む。それから、同じく赤インクで13本の横線を引き、行の初めに13の徳目の一文字を入れる。私は毎日、自分の行いを振り返り、徳目に反することをしたときは該当する箇所に黒点をつけた。
こうして私は、「1週間にひとつの徳目を厳格に守る」ことを何度も繰り返すことに決めた。最初の週は「節制」だけに気をつけ、この徳目に反することはぜったいにしないよう気をつける。だが、ほかの徳目にはとくに注意を払わず、過失があったときはとりあえず黒点をつけておく。
1週間が経ったときに「節制」の行に黒点がついていなければ、「節制の習慣は強まり、その反対である享楽の習慣は弱まった」ということになる。そうなれば、次の1週間は「節制」と「沈黙」の2行に黒点をつけずにいられるかもしれない。