200社超にエントリーしたがすべて書類選考落ち

学会本部を退職して、転職へ。それは、苦しい旅程でした。

手法としては、ごくふつうの方法をとったと思います。履歴書と職務経歴書をたずさえて、転職サイトに登録。たくさんの会社にエントリーして、書類選考に臨みました。また、転職エージェントにもお願いして、ぼくに合いそうな企業を紹介してもらうことにしました。ところが――というか、やはりというか――、ことは簡単には運びません。転職活動は、父がいっていたとおり地獄でした。

この地獄をまったく想像できなかったあたり、ぼくの感覚は相当に一般世間とかけ離れていたと思います。とくにぼくは、創価学園、創価大学、創価学会本部と進んできました。創価学会の世界のなかだけで生きてきた人間ですから、自分の強みを一般企業にどうアピールしていいのか、わかりませんでした。

世間知の欠如や一部の宗教差別などが、転職をとても難しくしていたのです。まず、エントリーした会社ですが、音沙汰おとさたはまったくなし。どれだけ待っても一向に書類選考が通りません。エントリーした企業の数は、それこそ200社を超えていましたが、鳴かず飛ばずの日々がつづきます。どうして?

ぼくにはそもそも、新卒時にふつうの就職活動をした経験がありません。当時、世間でよく聞かれた「書類選考で落ちつづける」という経験もありません。いわば免疫がなかったのです。だから、ぼくは落選つづきに戸惑い、落ち込みました。「自分は世間から必要とされていないのでは」と、疑心暗鬼ぎしんあんきになりました。

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ビジネス知識がなく、面接官に呆れられる

しかし、天は味方にもなってくれます。ある日、1社だけ書類選考に通ったのです。思わず小躍りするぼく。入念に準備をし、面接にむかいました。が、面談の場で瞬時につまずきます。

「正木さんは、35歳を超えてマネジメント経験はないんだよね。プレイヤーとしてKPIはどう追っていたのかな」「はい。えっと、お聞きしてもよろしいでしょうか。KPIってなんですか」

思わず苦笑いをする面接官(ちなみにKPIとは、「重要業績評価指標」のことです)。その後も2、3、質問されるも、ぼくの答えはおぼつきません。

「宗教法人の職員として磨いたスキルで、わが社で活かせそうなものは?」「正木さんは、わが社でどんな価値を発揮できるかな?」

面接官の問いにたいし、しどろもどろになるばかり。それを見て、面接官が苦笑します。そして決定的な一言を放ってきました。

「君は……布教活動でもしていればいいんじゃないのかね?」

これはショックでした。社屋をあとにすると、撃沈したぼくに冷たい雨がふりそそぎます。自然と涙が出ました。