ついに見つかった転職先は「べつの宗教法人」
そんなとき、携帯電話が鳴ります。エージェントからのひさしぶりの連絡です。じつはエージェントのほうでも、ぼくの転職先を探すのに相当苦労していたようでした。ですが、「ついに見つかった」と彼はいいます。胸が、熱くなりました。
「正木さん、この会社なら、これまで培ったスキルが活かせそうです」
「うれしいです! どちらの企業さまでしょうか」
「宗教法人○○の専従職員です」
べつの宗教法人……職務的にいえば……競合!? ぼくは血の気が引き、体がふるえました。
正攻法だけでは転職は望めない――。そう腹をくくったぼくは、その後、異業種交流会に顔を出すようになります。これも淡過ぎる期待なのですが、ヘッドハントされる可能性も「なきにしもあらずだ」と思っていたのです。しかし、思惑はいきなりくじかれます。
ある交流会の2次会が居酒屋で行われました。15人くらいがテーブルを囲んでいたと思います。ひととおり自己紹介が終わり、歓談。そこで“事件”が起きます。
心をえぐった弁護士の言葉
ぼくがあらためて「創価学会という宗教団体の職員をしています」と語ると、正面に座っていた弁護士がこうつぶやきました。
「俺は創価学会にいい印象を抱いていない」
瞬間、ぼくは固まります。彼は、かまわずにつづけました。
「創価学会の強引な勧誘は、世間では非常に評判が悪い。不評について、あなたたちはどう思っているのか。迷惑だと思わないのか」
ぼくは、とっさにいい返したくなりました。でも、険悪な空気をこれ以上長引かせたくないと思って、黙ってやり過ごしました。当然ながら、その後の交流会で「ぜひ、うちの会社に来なよ」といった話は出てきません(いまから考えれば、あたりまえ過ぎることなのですが)。
ただでさえ転職活動で心が折れそうになっていたところに、この一発。ダメージは相当です。転職サイトにエントリーしてもダメ。転職エージェントに頼んでみてもダメ。異業種交流会に参加して、人脈を広げてもダメ。友だちのつながりなど八方手を尽くしたけれど、それらも全部ダメでした。
悲しいかな、ぼくには転職市場での需要がなかったのです。一般企業で活かせるようなスキルを、うまくしめすことができなかったのが原因だったと思います。
「教団本部に残るしかないのかな」。そんな思考が脳裏によぎる毎日。でも――。
「でも、でも、でも、自分に嘘をつきつづけて本部にとどまるなんて、どうしてもできない。教団組織に違和感を抱いてしまった自分にとって、『残留』はつら過ぎる!」
ぼくは、ジレンマに苦悩しました。そう呻吟しているうちに、ひょんなことから光明がさすことになります。