「宗教2世」にはどんな困難があるのか。正木伸城さんは創価高校、創価大学、創価学会本部職員というキャリアを歩んできたが、35歳で本部職員を退職した。ただ、いまも現役の創価学会員で、退会することは考えていないという。なぜなのか。正木さんの著書『宗教2世サバイバルガイド』(ダイヤモンド社)より、一部をお届けする――。
創価学会の本部職員を退職した文筆家の正木伸城さん
写真=筆者提供
創価学会の本部職員を退職した文筆家の正木伸城さん

端的に言って、やめるメリットがなにもない

僕は書籍だけではなく、雑誌やウェブメディアなどでも宗教2世について論じているのですが、読者のなかには「あれ? この著者、創価学会を脱会しているのかと思っていたけど、もしかして脱会しているわけではない?」と思われた人もいるかもしれません。そのとおりです。ぼくは、いまも現役の創価学会員です。

退会届は出していませんし、現状、退会するつもりもありません。一方で、学会活動からは完全に離れています。地元組織の学会員がぼくに接触してくることも一切ありません。ぼくは、信仰実践の基本となる勤行ごんぎょう唱題しょうだいもしていません。

なぜ退会をしないのか? それには理由があります。端的に申し上げると、「やめるメリットがなにもない」からです。「え? それだけ?」と思われましたでしょうか。それだけ、というか、これはけっこう大きなポイントです。

もしもここでぼくが創価学会をやめれば、おそらく大きな波風が立つでしょう。ぼくの家族や親族は、見わたすかぎり学会員です。学会員だらけの家系で、学会関係の知人・友人のネットワークも、ぼくのなかで、いまだそれなりの比重を占めています。あまりにも学会のど真ん中で生まれ育ってきたため、現在もその人間関係には足場があるのです。

それなのに退会をしてしまえば、ぼくへの見かたが一部でさらに悪く変わってしまうかもしれない。あるいは、家族や親族が後ろ指をさされることになるかもしれない。学会的ないいかたをすれば、いまのぼくは「退転状態」にあります。「退転」とは、創価学会のなかで活動をやめてしまうといった意味を持つ教団内の専門用語です。この退転状態と、学会を「退会」することの間には、相当な違いがあります。