リニア協力の条件として「静岡空港駅」設置を求めた

石川知事の後任として2009年7月に就任した川勝知事は、2010年7月の第5回中央新幹線小委員会にリニア沿線自治体の知事として出席した。

当時、リニアのルートは、静岡県を通過する現在の「南アルプス」の直線ルートに決定していたわけではない。あくまで候補に挙がっていた3つのルートのうちの1つだった。

にもかかわらず、国交省は静岡県をリニア沿線自治体とみなした。当日、出席した他の沿線自治体の知事はリニア新駅の設置を生かした地域振興への要望などを説明した。

一方、南アルプスの約10キロ区間をトンネルで貫通する静岡県がリニア沿線となったとしても、リニアを地域振興につなげるのは不可能である。

そんな中で、川勝知事は「静岡県としては、沿線地域として南アルプス地域での地質調査など積極的に協力する」などと現在では考えられない驚くべき発言を小委員会で行った。

ただ、川勝知事はその前段として、静岡空港新駅設置の有望性を説明した上で、「中央新幹線の整備計画とともに東海道新幹線の新駅設置を明確化していただきたい」と迫った。最後に「東海道新幹線の新しい運用形態を生かした陸・海・空の結節によるモデル。静岡空港新駅設置がその重要な突破口となる」と締めくくった。

静岡―掛川間はわずか14分と短すぎる

川勝知事が求めた新駅は、建設費を地元負担とする請願駅だった。川勝知事は「待避線を前提にした場合(建設費は)450億円ぐらい、待避線のない形でほぼ250億円と試算している。受益者負担であることを想定して、新駅の必要性を訴えている」などと述べていた。

だが、これにJR東海は難色を示した。いくら地元負担の請願駅だとしても、静岡―掛川間の所要時間は14分で駅間の距離が短く、もしその中間に新駅を造るとなれば、新幹線の減速は避けられず、新幹線の意味が失われるからだ。

筆者撮影
期成同盟会総会に出席したJR東海の丹羽俊介社長(左)と上原淳・国交省鉄道局長(東京都内)

一方のリニアは、2011年5月の整備計画決定で、南アルプスを貫通する直線ルートに決まり、静岡県も正式にリニア通過県となった。ただこれで中間駅が開業しないのは静岡県のみとなった。

JR東海は同年、これまで地元負担としていた中間駅の建設費用をすべて負担することを公表した。各駅約800億円にも上るリニア中間駅という地域振興策をJR東海が負担する代わりに、各県はリニア建設の円滑な推進のために全面的に支援することとなった。形の上では、静岡県のみが蚊帳の外に置かれる格好となった。

川勝知事は、懇意にしていたJR東海の葛西敬之名誉会長(2022年5月死去)らさまざまなチャンネルを通じて、静岡空港新駅構想を話題にしたが、歴代社長は新駅の設置構想をすげなくしりぞけた。