「百貨」ではなく「二貨」でいい
予算が足りないから一部分だけを変えてみることも頭をよぎりそうなものだが、北村氏はワンフロア全てを一気にリニューアルさせることしか考えていなかったという。
北村「百貨店がつぶれかけていたことは周知の事実でした。“さびれてしまった百貨店”のイメージを払拭して、お客さまにもテナントにも、『すてきに変わるんだ』ということを伝えなければ負のループは断ち切れない。少しの変革だと、信じてもらえません。すてきな場所だと感じてもらうためには、ちょっときれいにしたくらいではだめ。大きなインパクトを与えるために、がらっと変わることが必要でした。
それに、ワンフロアに20店舗などテナントをたくさん入れるのではなく、1店舗に絞ることで、商品の質を上げることができます。地方の百貨店は都心部よりも規模が小さいのに、“百”貨店という名前にとらわれてさまざまな商品を置こうと欲張りすぎです。地方の規模感だと“二”貨店くらいがちょうどいい。商品のバリエーションよりも、内容を絞って質を上げることが大事だと思いました」
高齢化地域でも「写真映え」を意識するワケ
限られた予算に収めるために、工夫を凝らした。
たとえば、お金がかかる床の張り替え。剝いだ床には新しい素材を張らず、その分費用を抑えた。百貨店ではコンクリート打ちっぱなしというのはあまりない。しかし「歴史をそのまま見せるというコンセプトもよいのでは」とコンクリートむき出しのままに。それまでの百貨店の常識にとらわれない、新しいフロアを作り上げていった。
こうして完成したフロアは、大きく生まれ変わった。エスカレーターを上がった瞬間、まず目に入るのは天井ギリギリの巨大なゴリラの像だ。ある意味“クレイジー”な印象を受ける。
北村「ゴリラの像は、写真映えを意識したんです。高校生など若い人たちにも、百貨店に来てもらいたいと思っていて。未来を担うのは若者です。今は商品を買うお客さまではなかったとしても、訪れること自体を習慣にしてもらうことができれば必ず未来の顧客になります。JU米子髙島屋には今、老若男女幅広い世代のお客さまが訪れていて、にぎわいを取り戻しつつあります」